昨年、インシアードでの研修経験をベースに、同僚や、著名な経営アドバイザーであるラム・チャラン氏らと共著で『The Phoenix Encounter Method』(McGraw-Hill Education)という本を出版した。ここでは「不死鳥の態度」とは何かについて相当議論した。自分たち自身でこの不死鳥のような態度を育てるため、何ができるかを考え抜いた。

 ラム・チャラン氏は客員講師で、シニアマネジメント向けのプログラムで教えている。いわゆる経営トップ層が対象だ。幹部層は頭がよく、経験も豊富だ。だがそうした過去の経験こそが前に進む上で障害になり、視野が狭くなっている。経験が赤信号になってしまっている。

共著者の1人、ラム・チャラン氏
共著者の1人、ラム・チャラン氏

 経験は素晴らしい。だが、今の世界がどのように回っているのかを理解してから動く必要がある。時には成功体験をいったん忘れ、学び直すことが極めて重要になる。過去について考えることを一度捨てなければならない。そして何が過去を文字通りに「破壊」しうるのかを、不安定な混乱のさなかで想像しなければならない。

 今回のことで分かったのは、企業経営者は自分の業界や市場、地元で起こっていることについては本当によく知っている、という事実だ。しかし経営者は、自社の業界の外で何が起こっているのかを理解することも重要だ。自分たちの市場の外で一体何が起こっているのか、素早く読み取る必要がある。

 トレンドを理解し、テクノロジーの発達を理解し、消費者の渇望を知る。違う環境設定の中で、消費者を満足させるために他の企業は何をしているのか。違うプロセスやビジネスモデル、あるいは違う技術を使っているのではないか。

 こうしたことはリーダーとして何ができるか、何がこれまでと違って、何を変革することが可能かを考え始めるに当たり、極めて重要なことだ。絶えず情報を「スキャン」し続けることが鍵だ。おそらく多くのリーダーは、十分な頻度、深度ではできていない。

 とりわけ現在は世の中が急変し、ずっと消火活動をしているような状態だからこそ時間がない。火がついてしまったから、延焼しないように消し止めるのに精いっぱいで、組織が未来に向かうための戦略的な計画を作り出すことが難しくなっているかもしれない。

 だからこそ、業界の垣根を越えて経営者が互いに手を取り合い、落ち着く必要があるだろう。リーダーはいったん、日々の消火活動や実行、オペレーションから抜け出すことも必要だ。そうすれば、戦略的な視点を持ち、5万フィートの高さから世界を見たり考えたりする時間を捻出できる。

 重要なのは、「もし時間があれば戦略的視点を持てばいい」という向き合い方ではダメだという点だ。戦略的視点は必要なものなのであって、ぜいたく品ではない。リーダーは、高い視点から見て考え、「ビッグピクチャー」、つまり大きな構想を発展させる時間を取る必要がある。それでこそ組織をうまく未来へとつないでいくことができる。

継続的なカイゼンから継続的な変革の時代に

過去10年の日本企業についてどう見ていますか。

ハシジャ氏:日本は極めて興味深い矛盾を抱えているように、私には思える。矛盾というのはこうだ。日本という国、そして日本企業は、技術を理解して活用する能力が極めて高く、その実績をずっと世界に示してきた技術国家だった。

 消費者レベルでも産業レベルでも、技術を巧みに取り込んできた。自治体レベルでもそれは素晴らしかった。都市計画の点でも、日本はかなり早い時期に、少なくとも東京では高度な技術を旺盛に取り込み、それをうまく使いこなしてきたと私は思う。

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