延べ5万5000人の中高生が参加するIT・プログラミング教育のキャンプやスクール事業を展開してきたライフイズテック(東京・港区)が、企業向けの研修事業を始めた。DX(デジタルトランスフォーメーション)が声高に叫ばれ、企業内の深刻なデジタル人材不足が指摘される中、テック教育を手掛ける企業が見た、日本の企業内の分断とテック人材育成の可能性とは?

デジタル人材の就職先の偏りに違和感

延べ5万5000人の中高生を対象にデジタル教育を手掛けてきたライフイズテックが、企業向け研修を始めたそうですね。短期間の研修で、アプリ制作まで手掛けるそうですが、そもそも、研修事業を始めたきっかけは?

小森勇太氏(以下、小森氏):最初はふとした疑問でした。ライフイズテックでは「メンター」と呼ばれる大学生のスタッフが中高生に向けて指導に当たっており、彼らに憧れた子供たちがまたメンターとなっていくのですが、メンターたちに卒業後の進路を聞くと、お決まりのように、サイバーエージェント、リクルート、マイクロソフト、ヤフーといった名前が出てくるのです。

 言い換えると、デジタル人材が足りないといわれ、どの企業もデジタル人材を必要とする中、我々が育成する子供たちの進路がテック系に偏っているな、日本の全体最適を考えたときに、これでいいのかな、と思ったのです。

<span class="fontBold">小森勇太(こもり・ゆうた)氏</span><br />ライフイズテック副社長COO(最高執行責任者)<br />1983年生まれ。早稲田大学理工学部卒、人材コンサルティング会社、リアル脱出ゲームのコンテンツディレクターを経て、現CEOの水野雄介氏とライフイズテックを共同創業。COOとして、サービス、マーケティングを担当。同社は中高生向けのIT・プログラミング教育のキャンプやスクールに加え、全国各地の自治体と組んで、22万人にネット教育システムも提供する。(写真/吉成大輔)
小森勇太(こもり・ゆうた)氏
ライフイズテック副社長COO(最高執行責任者)
1983年生まれ。早稲田大学理工学部卒、人材コンサルティング会社、リアル脱出ゲームのコンテンツディレクターを経て、現CEOの水野雄介氏とライフイズテックを共同創業。COOとして、サービス、マーケティングを担当。同社は中高生向けのIT・プログラミング教育のキャンプやスクールに加え、全国各地の自治体と組んで、22万人にネット教育システムも提供する。(写真/吉成大輔)

例えば、製造業に、といった発想は彼らにはないわけですか?

小森氏:おそらくテクノロジーの業界のカルチャーと伝統的な大企業とではカルチャーが違う部分、壁のようなものがあって、子供たちのベクトルが向かないという印象です。自分たちが得意なプログラミングといった技術を生かせそうな会社というとテック企業が浮かぶのだと思います。

プログラミングなどを教えるライフイズテックでは、メンターと呼ばれる大学生が中高生を指導する(写真提供/ライフイズテック)
プログラミングなどを教えるライフイズテックでは、メンターと呼ばれる大学生が中高生を指導する(写真提供/ライフイズテック)

それで、なぜ、企業研修を始めたのですが?

小森氏:2019年春、たまたまうちの代表の水野雄介が経済同友会でプログラミング教育のお話をしました。それがきっかけとなり、三菱ケミカルホールディングスの新入社員を対象とした研修を担当することになったのです。三菱ケミカルの社内アセット、テクノロジー、さらにSDGs(持続可能な開発目標)を組み合わせた5日間の研修を実施しました。

 200人くらいの新入社員の方が対象でしたが、この研修では、参加者の中に理系・文系という区別を越えて「テクノロジーは誰もがツールとして活用するもの」という、デジタルを基点に考えるマインドセットができたという手応えがありました。

 翌年も、と依頼もあったので、企業にとって必要なデジタル教育、人材育成とは何かをもっと考えようとしました。商社や金融、広告など20社くらいを対象に各社が抱える課題を聞いて回ったのです。

企業を取り巻く「3つのデジタル分断」

実際に、どんな課題があったのですか?

小森氏:まず「DXというキーワードはあっても、何をしていいか分からない」という声が多かったですね。DXが必要と言われても、人事担当者はどのように人材を育てていいか分からない。DXの人材要件が定まっていないからだと思います。

 さらに「現場の要求とシステム部門が提供する技術の水準がうまく釣り合わないから、DXと言われても何に投資していいか不明確」といった意見もありました。言葉はきついかもしれませんが、黒船が来て日本中が右往左往する形に近いのかなと思ったくらいです。

大きな混乱が見られると。

小森氏:組織の中に大きな「3つの分断」があると思いました。具体的には、業界の分断、組織の分断、個人の分断です。

 第1の業界の分断は、人が回流しない、ということです。初めに言った、僕らが育てるデジタル人材が一般の企業に行かないということにも通じます。

 第2は社内の組織、部門の分断ですね。例えばIT部門と事業部門の間の分断です。昔は、経理はこのシステムの会計ソフト、営業はこういうツールを導入しましょう、とIT担当者が予見して提供するだけで事業が回ったとも聞きます。今は、部門を超えて社内リソースを使う、つまり、横でつながることでデジタルのイノベーションが起きるといわれますが、それができていない。

 第3の個人の分断はマインドが原因です。理系・文系の区別に近いかもしれませんが、デジタルアレルギーを持つ人がいて、「デジタルは自分たちが関わるものではない」と決めつけてしまっている。

 ただ、DXを導入した企業が生産性を上げたり、事業を伸ばしたりしているのは明らかです。デジタルに対する壁を崩し、企業が迎え入れる人材をどう育てていくかは、我々のテーマになると思いました。

デジタルアレルギーは年齢に比例して増えますか?

様々な企業をヒアリングし「3つのデジタル分断が起きていると実感した」と話す小森氏(写真/吉成大輔)
様々な企業をヒアリングし「3つのデジタル分断が起きていると実感した」と話す小森氏(写真/吉成大輔)

小森氏:デジタルネーティブ、クラウドネーティブの若年層はデジタルを当たり前のように使いますから、もちろん年齢の壁を感じる人は多いでしょう。

 企業は過去の成功パターンやスキルセットを踏襲、伝承しているところが結構あると思います。しかし、世界的にDXの導入が進み、事業の効率化やスピードアップが起こる中、教えている能力と今、必要とされている能力とで、ミスマッチが起きているのではないでしょうか。

 「リスキリング」のようなキーワードも生まれています。テクノロジー業界にいると、技術がアップデートされるので、新しい技術を学ばざるを得ません。ビジネスの最前線でも、ビジネスのイシューを解決するために、デジタルを理解して最新にアップデートすることが必要かと思います。

続きを読む 2/4 デジタル人材に共通する思考のフレームを教える

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