人事院は6月21日、2021年度の国家公務員総合職試験(キャリア職)の合格者を発表した。競争率は7.8倍と、現行の制度に移行して過去最低となった。総務省の接待問題などキャリア官僚には厳しい視線が向けられている一方、長時間労働や政権への必要以上の配慮など働き方ややりがいへの疑問の声もある。自治事務次官を務めた後、竹下登氏から村山富市氏まで7人の総理大臣に仕えた元官房副長官の石原信雄氏は「政権の下僕になるな」と現状に厳しい目を向ける。石原氏へのインタビューを2回に分けてお届けする。

国家公務員を志望する学生が減っています。競争倍率も年々下落傾向にありますが、今の官僚を取り巻く環境をどのように見ていますか。

石原信雄氏(以下、石原氏):役人としてのやりがいや生きがいが減ってきているのではないかということを心配しています。時の政権に意見する幹部が減り、おとなしくなってきているという印象がありますね。

 中央官僚は省庁に入省し、所管行政を勉強し、その分野で社会貢献していく。生活のために役人の道を選ぶのではなく、国民のために貢献したいと思うからこそ、その職を選ぶわけです。公務員法にも、特定の党派や政党、勢力に奉仕するのではなく、国民全体に奉仕すると書いてあります。私が入省したときも、倉敷レイヨン(現・クラレ)の月給が1万円、公務員は6800円でした。給与ではなく仕事の内容に使命感があったからこそ、私も官僚を志望したのです。

<span class="fontBold">石原信雄(いしはら・のぶお)氏</span><br> 1926年生まれ。52年東京大学法学部卒業、地方自治庁入庁。市町村税課長、地方債課長などを経て財政担当審議官、税務局長、官房長、財政局長を務める。84年に自治事務次官就任。87年から95年まで内閣官房副長官を務める。(写真:陶山 勉)
石原信雄(いしはら・のぶお)氏
1926年生まれ。52年東京大学法学部卒業、地方自治庁入庁。市町村税課長、地方債課長などを経て財政担当審議官、税務局長、官房長、財政局長を務める。84年に自治事務次官就任。87年から95年まで内閣官房副長官を務める。(写真:陶山 勉)

 国でも地方自治体でも、トップは選挙で選ばれた政治家です。中央の場合は国会議員や閣僚であり、地方であれば地方議会の議員や知事であったりします。役人の任命権者である政治家が決定した政策を忠実に、公正に執行するという使命が役人にはあるわけです。日本は民主主義国家ですから、選挙民が決めた政治家の判断で下した政策に従わないといけない。

ただ、政治家と官僚の意見が食い違うこともありますよね。

石原氏:官僚として働く間には、自分の信念と違う政策が選択されることもあります。

 自分の人生観、価値観と相いれないような政策の実施を迫られた場合にどうするか。私はそこまで追い詰められたことはありませんでしたが、理論的にはこうした問題が発生することがあり得るわけです。その場合、自分や家族の生活もありますし、公務員は中央政府や地方自治体に使用される人間ですから、任命権者である時の政権の指示に従って仕事をしなきゃいけない。公務員に在職する以上、何でも反抗していいとは言えない。

 ですが、私は所管行政について自分の意見を持つことは重要だと思っています。自分が信じていることができないとなれば、官僚のなり手は減ってしまうと思う。生意気だと思われても「その政策はやめたほうがいいですよ」と言える役人は必要です。正論を言う役人が嫌われ、そうした役人が減ってしまえば、ますます優秀な人は役人になりたいと思わなくなる。長期的に考えて、それは国民にとって幸せなのでしょうか。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2766文字 / 全文4008文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、11年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「キーパーソンに聞く」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。