失ってしまった最たるものは水辺であり路面電車だ。首都高速道路や地下鉄によって失われたが、復活させることによって都市の生活のスピードを落とし、もっと日常を質的に豊かにしていくことができる。

 例えば地下鉄は便利でも地下を走るため途中の街の様子がどうなっているかが分からない。路面電車にすれば街を見ながら移動するためいろいろな気付きがあるし、街も路面電車の乗客から常に見られているため美しくなる。路面電車をいきわたらせることは地域全体を活性化させる。

上野、浅草などの都心北部が持つ可能性

 東京の中でも上野や浅草といった都心北部は実は64年大会のときにあまり開発が進んでない。このため、失われた東京の豊かな部分が断片的だが残っており、循環型の社会に変わっていく上で大きな可能性がある。

 東京が面白いのは歴史的な重層性が目に見える空間の中にあることで、よく見ると江戸から明治、大正、昭和の戦前、戦後の高度成長前などがいろいろな面で残っている。欧州の都市は19世紀以前の建物を保存しようとしてきたためまとまって残っているが、日本は保存をきちんとやらなかった分、雑然とした形で残っている。そしてその分、歴史的な重層性を探索する面白さがある。

 国や地域を問わず、近代化によって社会は多産多死型から少産少死型に移行するため、経済成長は持続しなくなる。そうなったとき社会がどういう方向に向かうべきかをめぐって、先行する欧州では70年代終わりごろから試行錯誤してきた。日本は90年代にバブル崩壊とちょうど重なるタイミングで成長の限界に達したと私はみている。だらしないから経済力が落ちたのでなく、日本はだんだん普通の国になっているのであり、社会の中で目指せるのは、クオリティーを上げ成熟していくことだ。

「東京が面白いのは歴史的な重層性が目に見える空間の中にあること」だと吉見氏は指摘する(写真:栗原克己)
「東京が面白いのは歴史的な重層性が目に見える空間の中にあること」だと吉見氏は指摘する(写真:栗原克己)

 例えばコロナ禍で飲食店が大変なとき、ニューヨークやバルセロナはロックダウンを経て少し緩和した段階で、車を追い出して道路を開放し、テーブルとイスを並べて屋外で飲食できるようにする取り組みを行った。日本の都市でもこうした取り組みを進めるべきだと思う。その結果、日本各地が面白いことをたくさんやっているとなれば、若い世代から高齢者まで元気になるだろうし、それを楽しむ観光客も増えるだろう。

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