北京のEVタクシーと充電を待つ運転手(撮影は筆者)
北京のEVタクシーと充電を待つ運転手(撮影は筆者)

 中国の電気自動車(EV)販売が伸びている。中国汽車工業協会が1月12日に発表したデータによると、2022年のEVの新車販売台数は前年比81.6%増となる536.5万台に達し、初めて日本全体の新車販売台数を超えた。

 補助金などの普及促進策を背景に、EVにプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)を加えた新エネルギー車(NEV、新エネ車)市場は急拡大しており、22年の新車販売台数は688.7万台となった。新車全体の販売台数は2686.4万台(前年比2.1%増)だったので、約4台に1台は新エネ車が占めた計算となる。

 EVの市場拡大は、自動車会社や電池会社など中国の製造業者にとっては追い風だが、逆に、EVに切り替わったことで影響を受けている業界もある。タクシー業界だ。

寒冷地の長距離走行には不向き

 北京市は、タクシーをこれまでのガソリン車からEVへと切り替える「油改電」を推し進めてきた。今では、街で見かけるタクシーのほとんどが、EVを示す緑色のナンバープレートを装着している。タクシーは8年で廃車とする規定があるため、あと数年で北京市のすべてのタクシーがEVへと切り替わる予定だ。

 北京のタクシー運転手は話し好きが多い。留学時代は中国語のレベルアップのために、現在は情報収集のために、タクシーに乗ったら必ず運転手と話をするよう心掛けている。私は20年以上北京に住んでいるが、これまで話をした運転手の数は、ざっと500人は下らないだろう。

 そのタクシー運転手が冬場によく口にするのがEVに対する愚痴だ。ガソリン代の高騰を受けEVの走行コストは相対的に低くなっているが、それでもEVタクシーの運転手のほとんどが「ガソリン車の方が良かった」と口をそろえる。その最大の理由が、冬場の航続距離と充電時間の問題である。

 北京の冬は寒い。日中でも氷点下を下回る気温の日がほとんどで、寒い日だとマイナス10度に達する。寒冷地においては必要となる電力が増えるため、EVだと航続距離が短くなる。北京のEVタクシーは、夏場だとフル充電で300キロメートルほど走るが、冬場だと半分以下。暖房をつけると3分の1近くまで落ち込むこともあるという。

 北京よりも寒い極寒の黒竜江省ハルビン市の実家に帰省している学生に話を聞くと、冬場に街でEVを見かけることは少ないそうだ。さらに、自動車販売関係者に話を聞くと、最も寒いときには氷点下30度を下回る同市では、EV購入を検討する人は少数派で、その最大の理由が冬場の航続距離が短いためだという。

 通勤用などの日常使いであればさほど問題ないのかもしれないが、航続距離がそのまま収入につながるタクシーだと死活問題となる。

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