もぬけの殻となった毎日優鮮芍薬居店
もぬけの殻となった毎日優鮮芍薬居店

 7月28日、中国生鮮EC(電子商取引)大手の「毎日優鮮」は、最短30分の宅配サービス「極速達」の停止を発表した。生鮮ECの生命線ともいえる即配サービスの停止で消費者不安は高まり、アプリにチャージ(入金)したお金の払い戻し要求が殺到した。

 騰訊控股(テンセント)をはじめとする有力機関投資家から累計100億元(約2000億円)を超える巨額の資金を獲得し、昨年6月には米ナスダック市場に上場を果たした毎日優鮮の突然の経営危機。中国の生鮮EC業界に何が起こっているのか。

競合参入で過当競争に

 毎日優鮮の設立は2014年。当時の生鮮ECは注文してから届くまでに時間がかかるのが大きな課題だった。ここに目をつけた創業者の徐正氏は、街中に小型倉庫を設置することで素早い配送を実現する「前置倉型」と呼ばれる手法を開発した。

 3キロメートル圏内をカバーする倉庫を都市内に多数配置することで、サービス範囲を拡大していく。客が実際に足を運ぶわけではないので、内装にコストをかける必要もないし、家賃の安い立地でもかまわない。

 倉庫から3キロメートル圏内であれば、スマートフォン(スマホ)で注文すれば最短30分で届けてくれるという利便性が受け、都市部の若者を中心に人気を集め急成長を遂げた。

 中国では、新たなビジネスモデルが出現すると無数の企業がこぞって参入し、激しい競争が繰り広げられるという事例が過去に何度も繰り返されてきた。特に、生鮮ECのような比較的単純なビジネスモデルだと過当競争に陥りやすい。

 16年、アリババ集団が展開する次世代スーパー「盒馬(フーマー)鮮生」が参入した。毎日優鮮の前置倉型と違い、盒馬は「売り場」「物流センター」「レストラン」の3つの機能を兼ね備える三位一体型だ。

※盒馬の詳細や生鮮ECの課題などについては『中国の次世代スーパー、コスト構造に課題目立つ』を参照。

 17年には、「叮咚(ディンドン)買菜」が毎日優鮮と同じ前置倉型でローンチ(立ち上げ)。19年には、フードデリバリー大手の美団も生鮮EC事業を立ち上げた。

 ただし、たとえ競合が増えたとしても競争力があれば経営不振に陥ることはないだろう。実際に、毎日優鮮が経営難に陥る一方で、同じ前置倉型を展開する叮咚の業績は好調だ。同社の報告書によると、第2四半期(22年4~6月)の売り上げは前年同期比42.8%増の66.3億元(約1326億円)に達し、四半期ベースで初の黒字を記録した。

 毎日優鮮の何が問題だったのか。私自身の経験談を紹介しよう。

魅力がなかった毎日優鮮のサービス

 我が家では数年前から日々の食材購入は生鮮ECを利用しており、実店舗に足を運ぶことはほとんどない。どんなに重い物を大量に購入しても、短時間で届けてくれる。大量の食材を抱えて汗だくで帰っていた頃から比べると、生活の質はグンと高まった。住居が生鮮ECの配達エリアかどうか、配達員がマンション敷地内に入って部屋まで届けてくれるかどうかが、引っ越しの条件にもなったほど、日常生活に欠かせないものとなっている。

 現在利用しているのは、盒馬、叮咚、美団の3つ。最初は様々なアプリを試し、毎日優鮮も使っていたが1年以上前に利用をやめた。特に買いたいものがなかったからだ。

 最終的にこの3社に絞り込んだ最大の理由が品ぞろえだ。それぞれに、そこでしか買えない商品がある。例えば、盒馬の特徴は高品質の生鮮食品。何度か店舗に足を運んだことがあるが、鮮魚コーナーには活魚水槽が設置され、全体的に「新鮮」を強調する売り場づくりとなっている。商品棚に貼られたQRコードから商品情報も確認できるなど、商品そのものに対する信頼感も高い。中国人を招いたホームパーティーで出す手巻き寿司用の刺し身は必ず盒馬で購入している。

 最近ではPB(プライベートブランド)商品も増えてきた。叮咚は乳業大手の内蒙古伊利実業集団と、美団は中国蒙牛乳業とそれぞれ提携し、牛乳やヨーグルトなど独自の乳製品を提供している。

 無料で配達してもらうためには一定金額以上の利用が求められる。そこでしか買えない商品で客を呼び寄せ、ついで買いを促す仕掛けだ。

 毎日優鮮を使わなくなったもう一つの理由がアプリの使い勝手だった。

 スーパーマーケット成功条件の一つに売り場づくりがある。客が回遊しやすいように設計されており、客の目に留まりやすいゴールデンゾーンに売りたい商品を並べるなど、商品棚の陳列にも売るための工夫がふんだんに施されている。おいしそうな刺し身の横に日本酒が並んでいるとついつい手が伸びる。あの手この手でついで買いを誘う。

 実店舗を持たない生鮮ECにとっては、アプリの設計がこの売り場づくりにあたる。毎日優鮮のアプリは、写真が小さく商品が探しにくいうえ、おいしそうに見えなかった。操作性やインターフェースも、他のアプリに比べて気に入らなかった。

 実店舗でも、品ぞろえが悪くて商品が探しにくかったら、客足は徐々に遠のいていくだろう。生鮮ECにおいても、客に支持されるポイントは変わらない。

次ページ コスト増で資金不足に