(写真:毎日新聞社/アフロ)
(写真:毎日新聞社/アフロ)

 2021年下期から低迷が続く不動産市場のテコ入れに中国政府が躍起になっている。2020年以降、バブル抑制を目的に不動産規制を強化してきたが、市場の急激な冷え込みを受けて、今年に入り緩和方向へと舵(かじ)を切った。

 金融面では利下げが進んでいる。中国人民銀行(中央銀行)は、事実上の政策金利と位置付けられている最優遇貸出金利(LPR、ローンプライムレート)を毎月公表している。住宅ローン金利などの目安となる期間5年以上のLPRは、1月と5月に低下し現在4.45%となっている。また、5月15日には、1軒目の住宅購入に関しては、住宅ローン金利の下限が0.2%引き下げられている。つまり、現在の住宅ローン金利の下限は4.25%と、年初より0.4%低い水準となっている。

 金利は全国的に適用される一方で、北京、上海、広州、深圳の「一線級都市」、各省の省都などの「二線級都市」、その他の中小地方都市である「三、四線級都市」など、不動産の状況は地方毎に大きく異なる。中国政府は「因城施策(都市の実情に合わせた施策)」を奨励しており、今年の『政府活動報告』でも「『因城施策』で不動産市場の好循環と健全な発展を促進する」との方針を示した。

 中央政府の方針を受け、地方政府も今年に入り様々な関連政策を矢継ぎ早に打ち出している。

地方政府による不動産需要喚起策

 地方政府による主な不動産需要喚起策には、①住宅ローン優遇、②購入・売却規制緩和、③補助金支給の3つがある。

①住宅ローン優遇に関しては、「住宅公積金ローン」限度額の引き上げや頭金比率の引き下げが実施されている。「住宅公積金」とは、住宅購入やリフォーム、家賃の支払いなどでの使途を目的に、会社と従業員が折半して積立金を拠出する制度だ。この住宅公積金を利用したローンは、民間商業銀行よりも低い優遇金利で借り入れできるが、地方によって限度額が決められている。限度額の引き上げにより、低い金利でより多くのローンが組めるようになる。

②購入・売却規制の緩和に関しては、短期的な住宅転売抑制を目的として、1軒目の住宅購入からある一定期間経過しないと2軒目物件の購入や3軒目物件の売却ができない規制が課されているが、一部の地域では緩和もしくは撤廃の動きが見られるようになった。

③補助金に関しては、高度人材、移住農民、多子家庭など条件を満たす住民が住居を購入する際に、地方政府が補助金を支給する政策が実施されている。

 また、都市の老朽化した住宅(バラック)地区の再開発で立ち退く住民を対象とする補助金も出てきた。立ち退き住人が新しい住宅を購入する際に使える「房票(住宅券)」を発行し、一定期間以内に使用したら補助金を支給する。立退料を現金で支給すると他都市で物件を購入したり、不動産を買わずに投資資金に利用したりするケースもある。「房票」により、資金を確実に同都市の不動産市場へと向かわせる施策だ。

 これらの政策効果はどうか。不動産市況は依然として低迷しているが、明るい兆しも見え始めている。国家統計局のデータによると、1~5月の不動産販売金額と面積はそれぞれ前年同期比マイナス31.5%とマイナス23.6%であった。ただし、単月の変化率で見てみると、5月の不動産販売金額、面積はそれぞれ前年同月比マイナス37.7%、マイナス31.87%となり、減少幅は4月のマイナス39.0%、マイナス46.6%から改善した。21年下期以降に悪化の一途をたどってきた不動産販売は、ようやく転換点を迎えたようだ。

 中国不動産大手の万科企業の郁亮・董事会主席も、6月28日の株主総会において、中国の不動産市場は底打ちしたとの認識を示している。

 効果が見られるようになった要因として、比較的大きな都市で不動産需要喚起策が実施され始めたことが考えられる。不動産規制緩和策を公表した地方政府を見てみると、1~3月には三線級以下の都市が大半を占め、二線級の規模の大きい都市は黒竜江省哈爾浜(ハルビン)市や江西省南昌市などわずかだった。それが4月以降は一変し、遼寧省の瀋陽市や大連市、江蘇省南京市、天津市など多くの大都市が矢継ぎ早に緩和策を打ち出した。

 大都市の需要喚起策によってようやく不動産市況が好転したという事実は、裏を返せば、三線級以下の都市では政策効果が限定的であることを示唆している。

次ページ 地方都市の財政リスクに懸念