限界出力に近づくインフラ投資

 2022年の実質GDP成長率目標を「5.5%前後」と設定しており、4月29日に習近平(シー・ジンピン)総書記が主催した中国共産党中央政治局会議でも、年間目標の達成に向けた努力を求めている。

 この逆風の中、いかにして経済成長率目標達成を目指すのだろうか。

 何らかのショックで経済成長エンジンに不具合が生じたとき、中国政府が点火するエンジンが「投資」である。実際に、新型コロナ禍で世界経済が大きな打撃を受けた20年は、中国はこの手法を用いて主要国の中で唯一プラス成長を維持した。具体的には、3.75兆元の地方専項債(特別債)を発行しインフラ投資拡大の原資とした。これは前年比1.6兆元増という大規模な増発だった。

 今回はどうか。実は、経済成長率の目標達成に向けた取り組みの一環として、地方専項債を利用したインフラ投資は継続的に実施されている。中国経済は上海のロックダウン以前から、需要の縮小と供給ショック、経済の先行きに対する期待の低下という「三重の圧力」に直面しており、李克強(リー・クォーチャン)首相は3月の記者会見で経済成長率の目標達成は「容易ではない」と述べていた。今年の「政府活動報告」によると、3.65兆元の地方専項債発行を計画しており、19年比では依然として高止まりしている状態となっている。来年度分の前倒し発行も考えられるが、プロジェクトにも限りがあるため、20年のような大増発は難しいだろう。

 また、前述したPCR検査は全て無料。中国メディアによると、費用は主に地方政府が負担しているという。5月は私一人だけでも24回の検査を受けた。統計データが公表されていないので、具体的な検査数や費用総額などは分からないが、複数の人の検体を混ぜて検査する「プール方式」を採用しているとはいえ、莫大な費用がかかっていることには間違いない。中国の東呉証券は、4月末現在においてPCR検査の常態化に必要な支出は、1カ月で216億元に達すると試算している。

 2年以上に及ぶ新型コロナとの戦いですでに地方財政は深い傷を負っており、これ以上負担を増やせば財政リスクはさらに高まることとなる。

※地方財政の現状に関しては、「中国地方都市に破綻リスク。4割超が人口減、不動産暴落も」を参照。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00109/00041/

次の一手は国有資産の有効活用

 5年に一度の共産党大会を今秋に控えた中国にとって、経済の安定成長が極めて重要となる。5月23日に開催された李克強首相主催の国務院常務会議では、①財政政策、②金融政策、③サプライチェーン、④消費と投資、⑤エネルギー安全、⑥民生保障の6分野33項目の経済対策が打ち出された。

 中でも、GDPの押し上げ効果が高いのは、①財政政策と④消費と投資だろう。具体的には、1400億元の追加税還付や、消費喚起を目的とした自動車減税600億元などの景気対策が示された。これらの原資として、感染症対策特別国債の発行もあるかもしれない。

 一方、投資に関しては、前述の通り地方専項債の大幅増発を通じた拡大は望めない。次の一手は国有資産の有効活用のようだ。5月25日に国務院(政府)弁公庁が発布した『有効投資拡大のための現有資産のさらなる活性化に関する意見』によると、インフラREIT(不動産投資信託)、PPP(官民連携)などを通じ、収益性の高いインフラや国有企業などが所有する遊休資産などの活性化を図る。これまでの地方政府に加え、国有企業が有効投資拡大の重要な役割を担うこととなる。

 北京では、約1カ月に及んだ防疫対策強化により、感染拡大抑制に成功しつつある。臨時のPCR検査施設も減り始め、交通機関が再開し出勤も認められるなど、正常化に向けて着実に前進している。6月1日には約2カ月続いた上海のロックダウンも解除された。6月の中国経済は急速に動き出すだろう。

 この危機的困難を乗り越え安定成長を実現できるか。総力を挙げた挑戦が始まった。

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