(写真=PIXTA)
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 「共同富裕」。毛沢東が最初に提唱し鄧小平も用いてきた以前からある言葉だが、2021年8月に開催された中国共産党中央財経委員会で習近平(シー・ジンピン)総書記が改めて実現に向け強い意欲を示したことで、にわかに注目を集めた。

 同委員会では、富の分配として、労働の対価としての賃金など市場による分配(一次分配)、税や社会保障、財政支出による分配(二次分配)、寄付や慈善など自発的な分配(三次分配)があるとした。

 この三次分配で、積極的にチャリティー事業を展開するのがアリババグループだ。

共同富裕に資するデジタルチャリティー

 アリババ傘下のフィンテック企業・螞蟻集団(アント・グループ)は、「支付宝(アリペイ)」アプリ上でチャリティー活動を行ってきた。その代表例が、2016年からサービスを始めた「螞蟻森林(アントフォレスト)」だ。例えば、車を使わず自分が歩いた歩数に応じたポイントを受け取り、そのポイントを使って仮想空間で木を育てる。ポイントが一定以上たまったら、アントや協賛会社が出す資金で実際に植林することができる。私も使っているが、実際にたまったポイントで寄付を行うと、デジタル証書が発行されSNS(交流サイト)などでシェアすることもできる。

 「螞蟻森林」は環境保護だが、「螞蟻新村」「螞蟻庄園」「芭芭農場」の3サービスから形成されるデジタルチャリティーの主な寄付対象は、共同富裕が目指す格差是正に資する地方の貧困地区である。

 2021年秋にリリースされた「螞蟻新村」では、村民を雇って豆(ポイント)を生産し、一定ポイントたまったら寄付することができる。寄付の対象によって異なる施設が建設され、村が発展していく仕組みだ。

 例えば、AI(人工知能)訓練やアノテーション(タグ付け)作業員の育成に寄付をすると「科学技術ビル」が建設される。機械学習アルゴリズムは、タグ付きのデータを読み込むことでパターンを認識するため、正確なタグが付いていないデータは、AIは正しく学習することができない。例えば、学習前のAIは人間の顔の画像を見ても「人」と判断できないため、「目」「鼻」「口」など人間の顔の細かな特徴を人の手で入力する必要がある。この作業を担うのが地方の低賃金労働者で、アノテーションは貧困地区の新たな収入源となっている。

 この他にも、老人や障害者など社会的弱者のケアをする社会工作師に寄付をすると「村民サービスステーション」が、医療用ウィッグ(かつら)などの生産者に寄付をすると「職人工房」が建設され、村が徐々に近代化していく。

 他のチャリティーサービスとも連動している。村の中にある「螞蟻庄園」は、育てたニワトリが産んだ卵(ポイント)を寄付するサービスだ。主な対象は困難を抱える子供で、先天性の心臓病や白血病を患った幼児や、栄養不足の赤ちゃんなどに寄付することができる。

 ニワトリの糞(ふん)は肥料として「芭芭農場」の果樹を育てることができる。果樹が成長し、果実が熟したら収穫。実際にリンゴや梨、マンゴーなど指定した果物が送られてくる。ユーザーはただで果物が手に入り、貧しい農家の収入アップにもつながる仕掛けだ。

出所:筆者作成
出所:筆者作成
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