第二の鶴崗市は現れるのか?

 財政収入を土地使用権譲渡金に依存する体質は鶴崗市だけのものではない。地方政府の土地財政依存度は2017年以降急激に高まってきた。

 その背景に、土地財政の原資となる国有地の備蓄、整備に関わる資金の確保を目的とした地方専項債の発行が認められ、土地備蓄が容易となったことがある。また翌2018年には、都市の老朽化した住宅(バラック)地区再開発を名目とした地方専項債も解禁。2019年には、地方専項債全体の約7割をこの「バラック地区再開発」と「土地備蓄」が占めた。

※詳細は「コロナショックで変わる中国の経済成長エンジン」を参照。

 専項債の収支は、定められた項目の政府性基金収入、プロジェクト収入により均衡させる必要があり、その他の項目の政府性基金収入を用いて調整することはできない。中でも、「土地備蓄」と「バラック地区再開発」を名目とした専項債は、土地譲渡収入によって元利返済を行うと規定されている。

 問題は、元利返済の原資となる地方政府の土地譲渡収入が低迷する中、2017年以降、大量に発行されたこれらを名目とした地方専項債の返済期限が近づいてきていることだ。

 2017~19年に発行された新発専項債を用いて独自に集計したデータによると、2017年に発行された「土地備蓄」を名目とする地方専項債(特別債)の平均償還年数は5年。つまり、ちょうど5年後となる今年から返済が始まる。そして来年以降その額は急激に膨らんでいく(図2)。

(図2)地方専項債の残高と平均償還年数
(図2)地方専項債の残高と平均償還年数
(出所)Wind (注)プロジェクト分類は証券名に基づき集計した。期間中に発行された専項債のうち約8割において証券名に用途が記載されている(それ以外の「専項債」とのみ表記されているデータは削除)。かっこ内の数値は発行時の償還期間の平均値
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 ただし、地方都市でも状況は各地で異なる点には留意が必要だ。各省の省都など比較的経済規模が大きい都市には人口が集中しており、マンションやオフィスなどの不動産に対する強い実需が依然として存在する。実際、2020年の人口センサスによると、過去10年間で人口が減少した省都は、鶴崗市が位置する黒竜江省のハルビン市(5.9%減)のみであった。

 一方、新たに加えられた「海南省三沙市」を除く292の地級市(省・直轄市・自治区に次ぐ行政単位)のうち、実に133市(45.6%)において、過去10年間で人口が減少へと転じている。中でも、経済不振が続く東北三省(遼寧・吉林・黒竜江)が極めて深刻で、遼寧省の瀋陽(11.4%増)、大連(11.4%増)、吉林省の長春(18.1%増)以外の全ての都市で人口が減った。

 二極化が鮮明となる中国の地方都市。「土地備蓄」、「バラック地区再開発」を名目とした地方専項債の元本返済が相次いで始まる来年以降、土地譲渡収入が回復しない一部の地方政府では財政破綻リスクが顕在化するかもしれない。

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