(写真=Shutterstock)
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 中国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)、通称「デジタル人民元」の正式発行に向けた動きが加速している。2022年1月4日、デジタル人民元アプリはこれまでの「測試版(試験運用バージョン)」から「試行版(試用バージョン)」へとアップグレードされ、新たな機能も追加された。

 デジタル人民元は、20年から地域を限定した試験運用が始まっており、足元で利用者が急速に拡大している。

急速に進む試験運用、北京冬季五輪会場でも

 最初に市民参加型の試験運用が行われたのが深圳市羅湖区、香港と隣接するゲートウェイ都市だ。抽せんで5万人の深圳市民に配布された、1人200元(約3600円、1元=18円で計算、以下同)のデジタル人民元は、20年10月12日~18日の期間において同地区の3389店舗で利用された。翌年2月には首都北京でも試験運用が行われたので、私も応募してみたが残念ながら外れてしまった。

 デジタル人民元は、補助金など政府から個人への支払いにも利用できる。深圳市では、新型コロナウイルス感染症との戦いで貢献度の高かった5000人の医療・介護従事者に対し、デジタル人民元でボーナスを配布している。

 現在、デジタル人民元の試験運用は、10都市および冬季オリンピック会場で行われている。中国人民銀行の易綱行長(総裁)が11月に行った講演によると、21年10月8日時点で、試験運用場所は350万カ所を超え、累計1.23億の個人用ウォレットが開設され、取引金額は560億元(1兆80億円)に達している。これらのデータは21年6月末時点では、試験運用場所132万カ所、個人用ウォレット2087万個、取引金額345億元(6210億円)と公表されていたが、わずか3カ月で急拡大しているようだ。

 積極的な試験運用以外にも、既存のモバイル決済の弱点を克服する開発も進められている。

 デジタル人民元は中央銀行が発行する法定通貨であるため、現金と同じように「いつでも」「誰でも」「どこでも」使える決済手段としての役割が求められる。例えば、地震や洪水などで通信基地局に障害が生じインターネットに接続できなくなった場合、「支付宝(アリペイ)」や「微信支付(ウィーチャットペイ)」は途端に無力化する。これに対し、デジタル人民元の決済デバイスは、近距離無線通信(NFC)機能が搭載され、通信状況に左右されることなく決済ができる点で異なる。店舗の読み取り機以外でも、支払人と受取人の両方のスマホをタッチするだけでお金のやり取りができる機能も備える。

 デジタル人民元専用アプリを用いれば、ウォレット(デジタル人民元を入れる電子財布)と銀行口座番号とを紐(ひも)づけなくても利用可能となっており、短期で訪れている外国人旅行者も利用できるようになる。

 高齢者などスマホを持っていない人向けには、デジタル人民元専用デバイスの開発も進んでいる。21年9月に北京で開催された中国国際サービス貿易交易会の会場では、腕時計やブレスレットなどのウェアラブル(装着用)タイプ、杖(つえ)の持ち手の部分に支払い機能が付いたステッキタイプ、残高が確認できるカードタイプなどがお披露目された。

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