日本の水際対策のリアル

 日本でここまでの対策ができるのだろうか。

 個人的には、強い私権制限を行い「ゼロコロナ」を目指す中国式コロナ対策よりも、個々人の自制心に任せる日本式対策の方が好ましいと思っている。2020年4月の感染第1波の時は、ロックダウンのような強権的な手段をとらずとも、比較的緩い「緊急事態宣言」の下で、多くの国民がとても我慢強く感染拡大の抑制に努めた。

 悔やまれるのは、この国内感染が収束へ向かおうとした時期に徹底した水際対策を行わなかったことだ。外からの侵入を厳しく防ぐだけでも、日本国内における爆発的感染を回避できた可能性はある。

 2021年4月に米国から一時帰国した友人に日本の空港での水際対策の状況を聞いて、あまりの緩さにがくぜんとした。

 羽田空港到着後は、通常の入国手続きに加え、健康チェックやPCR検査など、新型コロナ専用の作業が待っている。その一つに、14日間の健康観察のためのアプリの入手や設定がある。具体的には、①位置情報を確認するためのアプリ「OEL(Overseas Entrants Locator)」、②健康状態をビデオ通話で確認するために使用する「Skype(スカイプ)」もしくは「WhatsApp(ワッツアップ)」、③新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA(ココア)」の3つのアプリを自分のスマホにダウンロード、設定しなければならない。

 普段使い慣れていないアプリであるため、多くのスタッフが配置され、手取り足取り作業をサポートしてくれる。しかし驚くべきはスタッフとのソーシャルディスタンスが全くとれていないことだ。「この1年間、アメリカではソーシャルディスタンスを気にしてばかりだった。見送ってくれた娘ともエアハグ。見ず知らずの他人が数十センチの距離に来るなんてあり得ない」と憤る。

 スタッフはマスクのみで防護服も着ていない。毎日のように至近距離で帰国者の対応をしていたら自らが感染し、ウイルスを拡散させてしまうリスクはあり得る。逆に、海外からの入国者で、ここでスタッフを介して感染してしまう可能性も考えられよう。

 全ての作業を終え、PCR検査の陰性結果を待って解放された後、外で見た光景はさらに衝撃的だったそうだ。空港から自宅やホテルなど待機場所までの交通手段として、電車やモノレール、バス、タクシーといった公共交通機関は使用してはいけないはずなのに、多くの入国者が「モノレールの方向に吸い込まれていった」という。別の知人から聞いた話では、空港からそのまま国内線で別の都市に移動した人もいるそうだ。我が国のコロナ対策は、あくまで「要請」であり、そこに強制力はない。

 友人は帰国者専用の無料シャトルバスで空港近くのホテルに移動し、自主隔離生活を開始。わざわざダウンロードしたビデオ通話アプリや電話によるリアルタイムの確認は一度もなく、結局、メールによる確認しか来なかったという。

 最近ではこれよりも厳しくなっていると聞くが、新型コロナの世界的大流行(パンデミック)から1年以上経過した時点においても、ここで紹介した穴だらけの水際対策が実施されていたのは紛れもない事実である。

国内ロックダウンの前に強力な水際対策の実施を

 2021年に入り、緊急事態宣言が乱発された結果、日本国民の「コロナ疲れ」を指摘する声が聞かれるようになった。例えば東京都では、今年1~8月の243日のうち、3度の緊急事態宣言の発令期間は計181日間に及ぶ。2度のまん延防止等重点措置の適用期間34日間を含めると、今年の89%の期間が何らかの制限を受けていることになる。しかも収束のめどは全く立っていない。ゴールの見えないマラソンを走らされているような状態で、「疲れるな」という方に無理がある。

 このような中、8月20日の会合で全国知事会がまとめた政府への緊急提言では、ロックダウン並みのさらに強い規制を可能とする法整備などを求めた。

 しかし、ロックダウンの前にまずやるべきことは水際対策の強化ではないか。バケツの中の水を必死でろ過してきれいにしても、汚水を外から垂れされ続けていては、いつまでたっても汚れたままだ。

 私権の制限を伴うロックダウンが可能なのであれば、水際対策に関しては、中国並みのレベルに引き上げることを検討してもいいだろう。中国では国内で確認された新規感染者数について、市中感染ケース以外に、「境外輸入」ケースも公表している。水際で感染が確認された患者の数だ。中国国家衛生健康委員会によると、2021年8月末までに確認された「境外輸入」ケースは8340人に達した。つまり、これだけの数の感染者が国内に入ってウイルスを拡散させるのを、水際で未然に防いでいるということだ。中国式水際対策の効果は高い。

※中国の水際対策に関しては「中国入国、水際対策のリアル。日本人専用ホテルの14日間」を参照。

 正直言うと、空港からの移動で公共交通機関を使わないことや14日間の自宅待機を「お願い」する、強制力を伴わない比較的緩い対策のほうが、海外に住む我々が帰国する際には楽だ。しかし、国益を最優先に考えるのであれば、「性善説」に基づく水際対策は、早急に見直すべき時期にきている。

 国の権限強化や私権制限に対する反対意見は根強く存在する。恣意的な運用を防ぐ対策は必要だ。例えば、「WHOのパンデミック宣言期間中」のように、外部環境に応じて適用期間を限定するのも一つの手だろう。

 歴史は必ず繰り返す。次のパンデミックに備える意味においても、強力な水際対策の導入を検討すべきだ。

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