外国人向けの新型コロナワクチン接種は3月中旬から、まずはメディア関係者を対象に始まった。取材などで要人との接触機会が多いことを考慮したのかもしれない。
接種は当然本人の自由意思だが、ワクチン未接種を理由に取材拒否をされる可能性もあるため、接種した記者は少なくないようだ。実際に、7月1日の中国共産党100周年を記念した式典では、入場条件としてワクチン接種および冒頭で紹介した接種証明書の提出が義務付けられた。
ワクチンを接種して体内に抗体ができるまでには、第1回目の接種から3週間以上の間隔をあけて第2回目を接種し、さらに2週間ほど待つ必要があるという。これを理由に、式典参加者全員に対し6月15日までに第2回目の接種を終えておくよう要請された。逆算すると5月25日には第1回目を接種する必要があり、通知が来た時にはすでに期限が過ぎていたため、事前に接種していなかった記者は現場取材ができなかったようだ。来年2月に開催が予定されている2022年北京冬季五輪においてもワクチン接種が義務づけられるかもしれない。
北京で外国人向け接種が全面的にスタートしたのが3月末。私に大学から接種の案内が来たのは4月上旬だった。案内では、使用されているワクチンは成熟した信頼性の高い伝統的な方法で作られていること、安全性と有効性は国際的に認められていることなどが強調され、禁忌事項に該当しない人は全員接種する必要があると記載されていた。
副作用としては、注射部位の痛みや疲労感などが多く、その他にも発熱、頭痛、食欲不振、嘔吐(おうと)、下痢などがあると聞いていた。接種後に極度の睡魔に襲われたという人もいたが、私は不思議と2回とも全く反応が出なかった。
「様子見」から「政府主導」を経て「自主接種」フェーズに突入
実際の接種状況はどうなっているのだろうか。
年初から現在までのワクチン接種状況を見てみると、大きく1~2月の「様子見期」、3~4月の「政府主導期」、5月以降の「自主積極期」の3つのフェーズに分けることができる。
21年年初の接種開始直後から、接種者が急増したわけではない。国家衛生健康委員会の統計によると、接種回数は1月で計1950万回、2月で計2800万回。1日平均に換算するとそれぞれ63万回、100万回と接種ペースは比較的緩やかだった。
スタート直後ということで現場の準備が完全には整っていなかったのに加え、春節休みといったカレンダー要因もあろう。そもそも、新規感染者が極めて少ない中国では、感染リスクが低いと考え積極的にワクチンを打ちたいという声はあまり聞かれなかった。短期的に開発したワクチンに懐疑的な人も多く、様子見ムードが漂っていた。
3月に入ると接種スピードは加速する。1日平均の接種回数は、3月の219万回から4月には484万回と倍増した。
背景にあるのがトップダウンによる接種促進策だ。職場や「社区」に接種率達成目標を設定し、重度のワクチンアレルギーの既往歴がある人、急性疾患および慢性疾患の急性期にある人、妊娠中の女性といった特定の理由がない人を対象に、積極的に接種を呼びかけた。私の住んでいる「社区」からワクチン接種を促す電話がかかってきたのもこの頃だった。
職場や「社区」が実際にとった施策は様々だ。北京の中心部にある国貿エリアのあるビルの清掃員に話を聞くと、ワクチンを接種しない場合は、毎週PCR検査を自費で受け報告するように職場から命じられたという。私も「ワクチン接種したら卵1箱プレゼント」というショートメッセージを「社区」から受け取った。
この頃になると、ワクチン接種開始から半年近くたち、安全性に問題ないという認識が市民の間に広がっていたが、市中に感染者がいないので、あえて予防接種する動機が希薄だった。そのような市民の背中を国内感染のニュースが押した。
5月13日に安徽省で、5月21日には広州で国内新規感染者が相次いで確認され、広州のケースは中国本土内の市中感染で初めてのインド型(デルタ型)変異ウイルスだった。実際に、1日の接種回数は5月14日に初めて1000万回を超えた後に急増。5月の1日平均の接種回数は、1279万回となり、6月にはさらに1944万回にまで加速した。
6月末現在、累計接種回数は12億回を超えた。21年末までに少なくとも接種対象者の70%の接種完了を見込む中国。今後も接種回数は高水準で推移しそうだ。
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