著者が利用した「貝殻找房」のVR内覧サービス
著者が利用した「貝殻找房」のVR内覧サービス

 日本ではゴールデンウイークが明けても、東京はじめ、大都市を中心に緊急事態宣言が続いているが、中国ではコロナもほぼ収束し、日常生活を取り戻したと言える状況にある。中国でも今年のGWは5日間あったが、国内旅行も盛り上がったようだ。

 コロナ禍で対面営業が制限を受けた中、中国社会で広がったのがデジタル技術を活用したオンラインでの営業活動だった。

 ニューヨーク証券取引所にも上場しているオンライン不動産取引プラットフォーム「貝殻找房(KE Holdings)」は、自社開発のVR(バーチャル・リアリティー、仮想現実)技術を用い、自宅にいながらパソコンやスマートフォンで簡単に内覧できるコンテンツを提供している。

 ユーザーはこのVR画面を1人で見ることもできるし、担当者とリアルタイムでやりとりしながら内覧することもできる。細かい内容を事前に把握できるため、実際に現地に赴いて物件の確認を行う際の内覧時間も自然と短くなる。

 以前住んでいたマンションの契約切れに伴い、私もコロナ禍の中での引っ越しを余儀なくされた。積極的に利用したのが、この貝殻找房が提供するVRだった。従来型の写真だけの情報だと、実際に足を運んで見たときとの落差が大きい物件が少なくなかった。一方VRは、画像も鮮明で細部までチェックできると同時に、360度見渡せるため全体的な雰囲気も把握できる。結果として満足のいく部屋を探し出すことができた。

 同社が3月に発表したアニュアルリポートによると、2020年におけるプラットフォームの総取引額は前年比64.5%増となる3.5兆元(約59.3兆円、注:1元=16.95円で計算、以下同)、売上高は前年比53.2%増の705億元(約1.2兆円)に達し、共に過去最高を記録した。VR内覧回数は、19年はわずか390万回だったが、コロナ禍の20年は6600万回に達しており、同社のデジタル技術が売り上げ増に大きく寄与したことがわかる。

振り返れば2020年はライブコマース元年

4982億元(約8.4兆円)を売り上げた2020年のアリババ「独身の日」セール(写真:ロイター/アフロ)
4982億元(約8.4兆円)を売り上げた2020年のアリババ「独身の日」セール(写真:ロイター/アフロ)

 このようなオンラインを通じたライブ営業は、コロナ禍がほぼ収束した今でも中国人の日常に溶け込んでいる。その代表例がライブコマース、テレビショッピングのネット版だ。

 中国浙江省にある義烏市は、100円ショップ各社が大量の商品を調達していたことから「100円ショップの里」と呼ばれていた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大でビジネスが激減、そのような中で活路を見出したのがライブコマースだった。もともと卸売市場、物流拠点、生産工場が集積しており、低コストでの仕入れや発送ができるという地の利を生かした。

 中でも、「直播帯貨村(ライブコマース村)」と呼ばれる江北下朱村には、多くの関連業者が集結し、至る所で生配信が行われ、「網紅(インフルエンサー)」育成講座なども開かれている。ここで言う網紅とは、テレビショッピングのカリスマといわれた「ジャパネットたかた」の高田明氏をイメージするとわかりやすいだろうか。

 日本でもすっかりおなじみとなった毎年11月11日の「独身の日」セール。アリババは、深夜0時のセール開始を待つ消費者を飽きさせないために、豪華スターを集めた前夜祭イベントを生放送する。20年のこのイベントには、カリスマインフルエンサーが登場した。その中の1人で、4000万元(約6.8億円)でロケットの発射サービスを即売させたことで話題となった女性インフルエンサーは、10月21日の事前予約販売日の1日で53.2億元(約901.7億円)を売り上げたと、中国メディアで報道されている。

 アリババの独身の日セール期間はこれまで11月11日の1日のみだったが、2020年は1~11日に拡大して開催された。セール期間におけるアリババの総取引額は4982億元(約8.4兆円)と、2019年の2684億元を大きく上回った。売り上げ増に大きく貢献したのがライブコマースだった。アリババが運営する生中継ネットショッピング「タオバオライブ」では、セール期間中の利用者が延べ3億人を超え、ライブコマースによる売り上げも倍増した。

 コロナ禍でリアル消費が大打撃を受けた2020年、ライブコマースは大きく躍進した。中国調査会社の艾媒咨詢(iiMedia Research)によると、20年1年間の中国ライブコマース市場は9610億元(約16.3兆円)に達し、19年の4338億元から倍増した。20年はまさに「ライブコマース元年」と言えるだろう。

教育分野でもオンライン化の新常態

 ビジネスシーンだけではなく、教育現場でもデジタル技術が積極的に利用されるようになった。

 今年3月末、私が勤務する対外経済貿易大学の大学院生面接試験はオンラインで実施された。面接そのものはウェブカメラ付きのパソコンで行うが、不正防止のためにスマホも使う。スマホのカメラを使って360度チェックした後、本人の真横に設置して側面から受験生と机全体を映し出すのだ。我々面接官は大学の教室に集合。受験生1人対面接官5人で、専門知識、英語力などをチェックする。私も初めて経験したが、効果はリアルの面接と比較しても遜色ないと感じた。

 私は山東財経大学で特聘教授(客員教授)を兼務しており、講義や大学院生の論文指導、若手研究者の育成などの責任を負っている。私の住む北京から約400km離れた山東省済南市に毎週通勤するのは困難だが、講義は3分の2をオンラインで対応し、論文指導もSNSとオンラインミーティングツールを使って定期的に行っている。

 中国では新型コロナウイルス感染症はほぼ収束し日常を取り戻しているが、コロナ禍で開発された便利なデジタルツールの利用は続いている。時間の節約や交通費負担の軽減などにもつながるため、これが今後の新常態となるかもしれない。

 今年3月に発表された「第14次5カ年計画および2035年長期目標綱要」においても、クラウドやビッグデータ、AIなど7つの重点分野を中心としたデジタル化の発展を加速させ、「デジタル中国」を建設する目標が示されている。

 アフターコロナの中国では、様々な分野におけるデジタルの社会実装がさらに加速していきそうだ。

この記事はシリーズ「西村友作の「隣人の素顔」~リアル・チャイナ」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。