全人代で「政府活動報告」を読み上げる李克強首相。コロナ対策として、簡略版を早口で読み上げた。(写真=新華社/アフロ)

 2020年における中国の実質経済成長率は2.3%と、新型コロナウイルスの感染拡大で世界経済が大きな打撃を受ける中、主要国の中では、唯一プラス成長を維持した。

 しかしその構造は、コロナショックにより大きく変化している。国家統計局が公表した経済成長率への寄与度をみると、19年では約6割を占めていた消費(個人・政府)がマイナスとなる中、20年の経済成長のほとんどを資本形成(投資)で達成した形だ。

経済成長率への寄与度
(出所)国家統計局のデータを基に筆者作成
(注)「消費の寄与度」には「個人消費」と「政府消費(政府支出)」の両方が含まれている。

伸び悩む個人消費をてこ入れ

 中国政府は経済成長モデルを消費主導型へと転換させてきたが、コロナ禍で蒸発した消費需要は完全には戻り切らなかった。新型コロナ感染が拡大する前の20年1月時点では、中国国家情報中心予測部は20年の社会消費品小売総額の伸び率は前年比8%程度のプラスと予測していたが、実際には3.9%減とマイナス成長となった。

 今年はどうか。

 中国で年に一度の重要会議、全国人民代表大会(全人代)が3月5日~11日の日程で開催された。そこで発表された「政府活動報告」では、消費の安定拡大に関して昨年よりもより詳細かつ具体的な内容に言及しており、回復が遅れる消費のてこ入れに力を入れる姿勢を示している。具体的には、「農村へのEコマース・宅配便サービス」、「自動車、家電などの高額消費」、「中古車取引」、「ヘルスケア、文化、観光、スポーツなどのサービス消費」といった文言が盛り込まれている。

 コロナ禍で投資主導へと逆戻りしてしまった経済成長モデルを、再び消費主導型へと導きたい考えだ。

地方専項債で増えるインフラ投資

 ショック時における消費の低迷は過去も経験済みである。SARSが流行した03年、リーマン・ショック直後の09年は共に、消費の伸び率が前年を大きく下回った。ショックで経済成長エンジンに不具合が発生したとき、中国政府が点火するエンジンが「投資」である。投資による経済成長への寄与度は、03年、09年共に消費を大きく上回った。コロナショックでも同様の対応がとられ、20年の2.3%の経済成長のうち、実に2.2%(94.1%)が投資によるものだった(前掲グラフ)。

 今回の投資拡大の原資となったのが地方専項債(特別債)の増発だった。昨年の「政府活動報告」で示された「地方専項債を昨年より1.6兆元増やして3.75兆元手配する」という方針に基づき、各地方政府が専項債による資金調達を拡大した。

 実は、18年、19年においても地方専項債の発行を増やしているが、結局インフラ投資に資金が回らず、経済成長に直接結びつかないという問題があった。

 このような問題が実際に起こっていた理由が、専項債の対象となるプロジェクトの内容だった。31都市の新発の専項債を独自に集計したデータによると、2019年に約7割を占めていたのがバラック地区の再開発(35.9%)と土地備蓄(34.0%)だった。これらの土地関連プロジェクトは有効投資に直接つながらず、インフラ投資が低迷していた要因と考えられるため、これらを名義とした専項債の発行が原則禁止とされた。20年7月からバラック地区の再開発プロジェクトの一部が再開されたが、通年では全体の12%にとどまった。土地備蓄はゼロだった。

プロジェクト別の地方専項債発行比率
(出所)Windのデータを基に筆者作成

 このような施策もあり、2020年におけるインフラ投資は前年比3.41%増と、固定資産投資全体の伸び率2.9%を上回った。

 今年も有効投資の拡大政策は継続される。「政府活動報告」によると、対GDP比の財政赤字目標を昨年の3.6%以上から約3.2%に引き下げ、昨年1兆元発行した「コロナ対策特別国債」を取りやめるなど、財政健全化に取り組む一方で、地方専項債は3.65兆元の発行を見込んでおり、19年比では依然として高止まりしている。土地関連プロジェクトを名義とした専項債の発行は今後も制限を受けると考えられる。

国有地の譲渡をベースにした土地財政に懸念

 そこで問題となってくるのが地方財政だ。地方政府の貴重な財源の一つが、国有地の使用権を販売して得た収入で、その依存度は近年加速している。

 中国の財政予算は、日本の一般会計にあたる「公共財政予算」と、特別会計のような「政府性基金予算」がある。この政府性基金の多くが、国有地使用権の譲渡による収入なのだ。中国財政部の統計によると、19年における中央、地方を合わせた全国政府性基金の83.6%が土地譲渡による収入で、この比率は年々増加傾向にある。

 この土地財政の原資となる国有地の備蓄、整備にかかわる費用は、2017年5月に『地方政府の土地備蓄専項債券に関する管理弁法(試行)』が施行され、地方専項債で調達することが可能となった。実際に、地方政府の国有地使用権の譲渡による収入および国有土地は17年以降急増しており、19年は7.1兆元に達し16年比で約2倍となっている(グラフ)。専項債の発行が土地使用権譲渡収入の増加につながった可能性は高い。

地方政府の国有地使用権の譲渡による収入
(出所)中国財政部のデータを基に筆者作成

 その土地備蓄を目的とする専項債の発行が禁止されれば、地方政府が保有する国有地が減り、ひいては財政収入に大きな影響を及ぼしかねない。しかも、専項債の返済はこの政府性基金が主要財源となっており、将来的に地方政府の債務返済が滞る可能性も考えられる。

 コロナ禍の中、経済成長モデルを投資主導型へと転換したことで、主要国の中で唯一プラス成長を維持した中国。その代償は、将来的な地方政府の債務問題という形で表れてくるかもしれない。

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