
「社区」コミュニティーで人海戦術
このように様々な先端技術がコロナ対策に用いられ効果を発揮したが、感染拡大抑制に最も有効だったのが、各コミュニティーでの人海戦術による「ローラー式管理」であろう。
中国の都市部には「社区」と呼ばれるコミュニティーがある。人口数千人程度のエリアで、私が住む「芍薬居二社区」には、21棟のマンションがあり、約3000世帯、7000人程度が住んでいる。
正式な行政単位ではなく、住所にも記載されないため普段から意識することはほとんどなかった社区だが、「新型コロナウイルス感染症に対する社区予防・抑制業務法案」が1月末に発表されると、感染拡大抑制の最前線で重要な役割を果たすことになる。
社区を管理するのが「居民委員会(居委会)」と呼ばれる組織で、数名の専属職員が様々な任務に当たっている。公的な立場ではあるが公務員ではない。「社会工作者」と呼ばれる職種に分類され、2008年から「社会工作師」の国家資格試験も実施されている。最近では大卒、大学院卒の専属職員も増えているようだ。
専属職員は数名程度で、例えば、私が住む「芍薬居二社区」の居委会は、主任1名、副主任2名、委員5名で構成されている。当然、大規模なコロナ対策はこれだけの人数では不可能であるため、住民の中からボランティアを募り対応に当たった。
ボランティアに5カ月ほど参加した北京在住の友人によると、コロナ対応以外にも、老人や弱者のケア、困窮者の支援、近所同士のトラブル解決など、社区内の「人」に関する多くの問題に取り組むため、「居委会の仕事がこんなに大変だとは思わなかった」そうだ。
外出制限の期間中はゲートに担当者を配し人の往来に制限をかける。住人に「出入証」を配布し、出入りの際にゲートで提示を義務付ける。また、検温などの健康チェックも実施する。
隔離者の監視とサポートも居委会の仕事だ。例えば、レストランに出前を頼んだり、スーパーに野菜の配送を依頼したりしても、配達業者は敷地内に入れないため、通常であれば住人がゲートまで取りに行く。しかし、隔離中は一歩も外に出られないため、居委会関係者が代わりに受け取って家まで届けてくれる。
社区でもPCR検査
ハイリスクエリアの住人は全員にPCR検査が義務付けられる。社区単位でPCR検査を実施する場合、検査自体は地方の衛生当局が担当するが、事前に受ける順番を決め住民に通知したり、検査時の秩序維持を行ったりと、検査を受ける人を組織するのが居委会だ。おかげで大規模なPCR検査も長時間並ぶことなく迅速に終えることができる。検査結果も全て居委会に提出する必要があるため、受けていない人の判別も可能となる。
2021年1月、河北省石家荘市で感染拡大が確認されると、約1100万人の全市民を対象にPCR検査が行われた。中国メディアによると、わずか3日間で検査を終え、さらに複数回にわたり同規模の検査が行われたという。1月末、北京市の東城区と西城区でも、200万人規模のPCR検査を2日間で行った。
このような大規模検査を短期間で実施するためには、社区・居委会という制度が無ければ難しいだろう。現在帰省している私の学生も、ボランティアとして実家がある社区のPCR検査を手伝ったという。社会が一丸となってコロナと戦っているのだ。
法律や制度も全く異なる我が国では、このような厳しい措置を全国規模で迅速に実行するのは難しいだろう。しかし、水際対策やハイテク技術の導入なども含め、学べる点は少なくないはずだ。他国の成功ケースを積極的に取り入れ、我が国のコロナ対策に役立ててほしい。一日でも早い収束を心から願っている。
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