徹底したコロナ対策で経済や社会活動の回復を図る中国。11月1日、江蘇省無錫では大規模なマラソン大会が開催された。(写真=VCG/Getty Images)
中国経済の回復が鮮明になってきた。中国国家統計局が10月19日に発表した第3四半期まで(1~9月)の実質GDPは、前年同期比0.7%増とプラスに転じた。四半期ベースで見ると、第1四半期が6.8%減、第2四半期が3.2%増で、今回が4.9%増と着実に回復している。
回復をけん引するのが輸出と投資だ。パソコンやマスクなどの外需の高まりを背景に輸出が伸び、貿易黒字も拡大した。固定資産投資もプラスへと転じた。中国政府は有効投資の拡大政策を進めており、地方政府債券の増発で得た資金を原資としたインフラ投資が好調のようだ。
低迷していた消費も持ち直しを見せている。社会消費品小売総額の前年同月比は、8、9月の2カ月連続プラスを背景に、第3四半期は今年初めて増加に転じた。
この勢いは10月以降も続きそうだ。中国政府によると、国慶節(建国記念日)に中秋節が重なる8連休(10月1日~8日)で、期間中の観光客が6億3700万人に達した。各地の大型イベントも再開しており、11月1日に江蘇省無錫で行われたマラソン大会には2万人超のランナーが集まり、参加した友人によると「黒山の人だかり」だったという。
このように、中国では経済活動はほぼ正常化し、消費現場もにぎわいを取り戻してきており、第4四半期の実質GDPは昨年レベル(6.1%増)以上のV字回復も十分に考えられる。世界経済が急激に落ち込み各国が軒並みマイナス成長となる中、通年でプラス成長を達成する数少ない国となりそうだ。
急速な経済回復のベースにあるのが、全国規模で徹底して実施してきた新型コロナウイルス対策による感染抑え込みの成功である。
マッキンゼー・アンド・カンパニーが8月に公開したリポートにおいても、新型コロナウイルスとそれに関する健康リスクをめぐる不確実性が通常の経済活動の妨げとなっており、その不確実性を取り除くことが経済成長に不可欠である、という分析結果が示されている。
全社会による徹底したコロナ対策
中国では依然として徹底したコロナ対策が続けられている。各地で異なる健康状態確認プログラムを使った管理が実施されており、北京では「健康宝」と呼ばれるアプリを使う。観光地や商業施設などの入場の際に、「緑」(異常なし)の提示を求められる。
PCR検査も1回100元(約1600円)程度と安価で日常的に行われている。例えば、私の学生が就職活動で北京を一度離れたが、学校に戻る際にPCR検査の陰性証明の提出が求められた。前述の無錫マラソンでも参加者全員にPCR検査が義務付けられたという。
感染者が発生した際の対応も迅速だ。2020年10月11日、山東省青島市で3例の新型コロナウイルス無症状感染者が発見された。青島市衛生健康委員会によると、発見から5日間で市内全域を対象とした1000万件超のPCR検査を実施したという。感染者の密接接触者、さらにその密接接触者940人に対しては、集中隔離観察および4度のPCR検査を行うという徹底ぶりだ。
徹底調査は感染者が見つかった地方だけにとどまらない。
「9月27日以降に青島に行きこのナンバーのタクシーに乗ったことがある人は自ら申告を」
青島市で無症状感染者が発見された翌日の12日午後、北京市が記者会見を開き訴えた。発見された感染者の1人がタクシーの運転手で、感染の可能性がある乗客にPCR検査を受けさせるためだ。
大学の反応も速かった。私が勤める対外経済貿易大学の事務員から11日の夜にSNSのグループチャット上に連絡があった。9月27日以降に青島に行ったか否か、感染者および関係者との接触の有無など統計を取り、関係当局に報告するための緊急通知だった。10月25日に新疆ウイグル自治区のカシュガルで137人の無症状感染者が発見されたが、そのときも同様の対応がとられた。
このように、中国でいったん感染者が発見されると、強力かつ迅速な感染抑制への取り組みが全社会を挙げて実施され、感染者数を最小限にくいとめるのである。
駐在員ら、在中日本人のケアを
この「全社会」の中には外国人も含まれる。当然、中国に長期滞在している駐在員やその家族、留学生など幅広い層の日本国民も対象となっている。
そのような中、日中間のビジネス往来再開に向けた動きが進んできた。現在中国に入国すると、指定のホテルで14日間の完全隔離生活が義務付けられているが、ビジネス目的の短期滞在者の入国に関しては、このホテル待機が免除されるという。
しかし、これは駐在員などを対象とする中長期滞在者には適用されない。つまり、現在中国に在住する駐在員が日本に一時帰国する場合、中国に戻ったときに再び2週間の隔離生活を余儀なくされてしまう。日常業務にも支障を来す上、航空チケットも高止まりしたままで、ホテル待機も有料だ。よほどの理由がない限り、気兼ねなく帰国できなくなっている。
中国に長期滞在する日本人の多くが、毎年数回日本に一時帰国しリフレッシュするのだが、今年はそれができずストレスがたまっている人も少なくないはずだ。もともとは家族帯同だったが、新型コロナ感染拡大を受け家族だけ日本に帰し、単身赴任となってしまったケースもある。子供が生まれたばかりで帰国して直接会いたいのに帰れないという友人もいる。
中国ビジネスが日本企業の業績に対する寄与度は高い。事実、コロナ禍から真っ先に脱しつつある中国経済の回復が後押しとなり、企業の業績見通しの上方修正が相次いでいる。その最大の功労者は中国ビジネス最前線で活躍する駐在員たちと言っても過言ではないだろう。
世界規模で見ると感染は再び拡大傾向にある。徹底した感染抑制策をとってきた中国が、短期間で緩和に転じるとは考え難い。帰国できない日々が続けば、目に見えないストレスがチリのように積もっていく。現地で働くビジネスパーソンに対するきめ細かなケアも忘れてはならない。
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