(写真:アフロ)
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 アリババグループ傘下で、中国最大のオンライン決済「支付宝(アリペイ)」を手掛ける金融テクノロジー企業アント・グループが、上海と香港株式市場に同時上場する。調達額は350億ドル(約3.7兆円)に達するとの報道もあり、実現すれば、2019年12月に上場したサウジアラムコ(294億ドル)を超え史上最高となる。

 このサウジアラビアの国営石油会社に比肩する中国の民間企業アント・グループとはどのような会社なのか。そして、今回の上場で調達した巨額の資金はどのように運用されるのであろうか。

アントを育てた社会問題

 アントの起点はアリペイだ。2000年代前半、クレジットカードが普及しておらず、金融インフラが未熟な中国では、ネット取引の安全性が問題になっていた。ECサイト「タオバオ(淘宝網)」を運営するアリババはアリペイの事業を通じて自らリスクを取り、未払いや詐欺を防ぐために取引を仲介することで、ネット上の取引の安全性、すなわち「信用」を担保した。

 アリペイは、タオバオの成長に大きく貢献したが、これにより得た副産物はさらに大きかった。取引ごとに蓄積されていく莫大な量の「データ」である。信用を担保したことで得た信用データを用いて新たな金融サービスを開発、アントの中核事業となっている。

 アントの上場目論見書を見ると、2020年上期(1~6月)の売り上げの63.4%を占めるのが「デジタル金融テクノロジープラットフォーム」事業で、中でもクレジットテック部門が同39.4%と最も高い。

 このクレジットテックに含まれるのが、信用データから算出した信用スコア「芝麻信用」をベースにした、クレジットサービス「花唄」やキャッシングサービス「借唄」といったマイクロファイナンス分野である。

 (「花唄」については、「アリババが1日で2.9兆円を売り上げたカラクリ」を参照)

 アントが進めてきたのが金融サービスをこの「マイクロ」層にまで広げる金融包摂(インクルーシブ・ファイナンス)であり、一貫して小さな世界に専念してきたことこそがアント成功の要因と言える。

 例えば、企業向け融資。中国では国有商業銀行が圧倒的な地位を築いている。「国有銀行は絶対に倒産しない」という不倒神話を背景に巨額の預金が集まり、それを信用リスクが比較的低い大企業向けに、低金利でも多く貸し付けることで収益を上げてきた。一方、信用調査に手間も時間もかかる上、融資規模も小さい中小・零細企業向け融資は敬遠されがちだった。

 いくら成長が見込まれようとも、資金が調達できなければ事業の拡大は難しい。従来の金融機関だけでは対応しきれていなかった中小・零細企業融資や農村金融市場などに存在した多くの課題も、アントのテクノロジーにより解決へと向かっている。

 国内では大きな成功を収めたアントであるが、競争も激化してきており、国内市場では成長余地が徐々に縮小している。また、中央銀行が発行するデジタル通貨の運用開始も現実味を帯びてきており、今後金融分野においては規制が強化されるかもしれない。

 そのような背景もあり、上海市場で調達した資金は、国内業務の多角化に使われると考えられる。アント・グループのかつての名称は「アント・フィナンシャル」。今年7月社名変更し、社名から「金融」の文字が消えた。自社の強みであるテクノロジーを、金融だけでなく様々な分野へと広げるという決意の表れと言えよう。

 今後は、「エドテック(教育+テクノロジー)」、「アグリテック(農業+テクノロジー)」、「メドテック(医療+テクノロジー)」など、様々な「〇〇テック」分野への発展が期待される。

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