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対外経済貿易大学では毎年数千人の大学院生が卒業する(18年6月撮影)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中国国内の教育機関に対する新学期の始業延期や登校禁止などの措置が実施されてから約3カ月が経過した。4月末現在、入試を控えた中学校・高校3年生においては授業再開の動きがみられるようになったが、北京の大学では依然として厳しい対策が継続されており、登校再開の見通しは立っていない。

 このような状況の中、私が最も気にかけているのが、教え子たちの進路である。卒業を控えた学生にとって、学位論文の執筆や就職活動など多くの重要イベントが重なるこの時期は、今後の人生を左右する「分岐点」といっても過言ではない。

 新学期が9月から始まる中国では、就職活動は「秋期」と春節を挟んだ翌年の「春期」の2度のピークがある。それぞれ10月と2月ごろから始まり、3カ月ほど続く。本来であれば今ごろは「春期」の佳境を迎えている時期だが、今年は新型コロナウイルスの影響で過去とは比較できないほどの「就職難」に直面している。

 2020年1~3月期の実質GDP成長率が前年同期比6.8%減となった未曽有の景気後退に加え、学生たちに対する移動制限の影響も大きい。中国の就活ではインターンが重視される。私の教え子でもインターン先でそのまま就職したケースが少なくない。学生の北京への移動が禁止されている現在、インターンの機会が激減しているのだ。

大学が総力で学生をサポート

 当然、大学側はただ手をこまぬいているわけではない。学生は最も重要な財産だ。教員、校友など様々なリソースを総動員し、必死にこの難局を乗り切ろうとしている。

 例えば、私が勤務する対外経済貿易大学では、オンラインでの面接指導や履歴書の手直し、求人情報の提供、オンライン就職説明会の開催などを積極的に実施している。また、卒業生やつながりのある企業を通じ個別に学生の推薦なども行っている。

 現時点で就職先が決まっていない学生以外にも、大学院の受験に失敗した学生や内定先企業が自分の理想に及ばず契約をためらう学生など、心理的ストレスを抱えた学生は少なくない。これらの学生にも、教職員が一人ひとりに対応に当たり、メンタルヘルスのケアも行っている。

 このような空前の「就職難」の中においても、積極的に採用を増やしている企業もある。例えば、オンライン教育分野もその1つ。卒業生の1人が講師を務めるオンライン学習サイト「粉筆網」では、新型コロナによる「在宅特需」を受けカリキュラムの充実化を図っており、「講師の採用を増やしている」(卒業生)という。また、TikTokを運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)においても「教育」を今後の重点戦略分野とし、「今年は1万人以上を採用する」と同社副総裁が表明している。

 中国経済の動向を探る上で、統計上では即座に表れにくいリアルな生情報を私は重視している。その1つが学生たちの就職やインターンの状況だ。

 例えば、中国経済の減速が話題となった18年、メディアでは「米中貿易戦争説」が多く報じられていた。しかし、当時の就活生が「企業の求人やインターン募集が消えた」と語るほどの異変が表れていたのが金融分野だった。これはまさに、17年10月の共産党大会において、金融リスク抑制が3つの重要課題の筆頭に掲げられたことを受け、企業や地方政府の「デレバレッジ(過剰債務の削減)」が進められていた時期と重なる。その後実際に、中国人民銀行の易綱総裁は「いくらかの政策で配慮不足だった」と、過度の抑制策によって社会の信用収縮を招いた事実を認めた。

 「コロナ後」の就活市場においては、これまでと異なるトレンドが生まれ、中国人学生の就職・キャリアへの意識にも変化が表れるかもしれない。今後の中国社会を理解するためにも注視していく必要があろう。