SARSに見る経済への影響

 SARSが流行した03年の中国の実質経済成長率は10%に達し、02年の9.1%プラスから加速している。この数値だけ見るとSARSの影響は無かったように見えるが、この頃の経済構造や背景は現在とは全く異なる点に留意が必要だ。

 中国がWTOに正式加盟したのが01年12月。03年はまさに中国経済に対する成長期待を背景に、世界からの投資が集まり始めた時期であった。国家統計局によると、03年の対中直接投資は前年比14.5%増の5614億ドルに達し、02年の12.5%増から加速している。公共投資や国内企業の投資も増加した。企業の設備投資を含む固定資産投資の伸び率は、02年の16.9%から03年には27.7%に大幅に伸びた。

 実際に、この頃の経済成長モデルは投資主導型であった。03年の経済成長への寄与度を見てみると、実に70%(7%)が資本形成によるもので、消費の寄与度は35.4%(3.6%)にすぎなかった。それが19年には逆転しており、資本形成の31.2%(1.9%)に対し、消費は57.8%(3.5%)に達している。

経済成長率への寄与度
経済成長率への寄与度
(出所)国家統計局のデータを基に筆者作成

 ただし、このデータを見るときには注意が必要だ。国家統計局が公表しているこの「経済成長への消費の寄与度」には「個人消費」と「政府消費(政府支出)」の両方が含まれており、このデータだけで「個人消費」の動向を判断することはできない。

 実質ベースではないが、名目ベースで「個人消費」と「政府消費」の実質値を公開しているのでそれを基に推計すると、経済成長への個人消費の寄与度は03年で26.4%(2.69%)、19年で42.3%(2.58%)となっている。

※19年の数値はまだ公表されていないため、過去10年の平均値(個人消費が73.2%、政府消費が26.8%)で代用した。

 中国政府が目指す消費主導型への経済成長モデルの転換は着実に進んでおり、個人消費の低迷が経済成長に与えるインパクトは以前より大きくなっている。

 それではSARSが流行した03年の個人消費の状況はどうだったのか。国家統計局のデータを見ると、社会消費財小売総額の増加率は、1997年のアジア金融危機後から2008年のリーマン・ショックまで基本的に右肩上がりで伸びてきたが、唯一前年を下回ったのが03年であった。SARSが個人消費の低迷を招いたと考えるのが自然であろう。

社会消費財小売総額と増加率の推移(98年~09年)
社会消費財小売総額と増加率の推移(98年~09年)
(出所)国家統計局のデータを基に筆者作成

次ページ 個人消費低迷は不可避