ローカルスーパーの肉売り場
ローカルスーパーの肉売り場

楽観できない今後の見通し

 政府主導の需給調整や高値に伴う消費者の買い控えなどを受け、豚肉の価格は11月以降いったん下落に転じたが、その効果は足元では限定的であるようだ。

 国家発展改革委員会の統計を見ると、豚肉の36都市平均の小売価格(500g当たり)は、11月7日の34.26元をピークに下落も、11月下旬から年末にかけて30元近辺で横ばいを続けている(12月30日現在は30.58元)。15年8月から中国国内で初めてASF発生が報告された直前の18年7月までの3年間における平均価格の16.45元と比べて、依然として倍近いレベルだ。

 影響は豚肉だけにとどまらない。豚肉の代替品として他の畜産品に対する需要が高まっており、食肉市場全体の価格を押し上げている。

 15年8月から18年7月までの3年間の平均価格(500g当たり)を見てみると、牛肉は34.68元、羊肉は32.17元、鶏肉は10.91元だが、19年12月30日現在の価格はそれぞれ43.74元(+26.1%)、41.09元(+27.7%)、14.28元(+30.9%)となっている。

主要食肉の36都市平均小売価格(500g当たり)
主要食肉の36都市平均小売価格(500g当たり)
(出所)国家発展改革委員会
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今後の見通しはどうか?

 中国はこの間も積極的に輸入を拡大しているが、国内の供給減を賄える量ではない。海関総署のデータによると、19年1~9月の豚肉輸入量は、18年同期比で43.6%増の133万トンに達した。一方、国家統計局のデータによると、同期間の豚肉生産量は3181万トンで、18年同期より662万トン(17.2%)少ない。単純に計算しても、市場の供給量は18年より529万トン少ない。

 生産状況については、疫病対策の強化などにより、繁殖用雌豚の飼育数は改善の兆しが見られるようになっているが、本格的な回復にはさらなる時間を要するとみられる。実際に、繁殖用雌豚が生まれてから、子豚を出産し、その子豚が出荷できるまでには1年半程度かかるため、「目標は来年末(2020年末)に通常の供給量の80%程度に回復させること(楊振海・農業農村部畜牧獣医局長)」という。

 中国の北部地域では、春節(旧正月)前日の大みそかに「年越しギョーザ」を家族で作って食す習慣がある。餡(あん)は豚肉がメインだ。1月25日の春節を前に需要増が見込まれる中、12月には計14万トンの国家備蓄の冷凍豚肉が4回に分けて市場に供給されたが、現時点では価格上の顕著な低下は見られていない。

 冬場にはウイルス感染力の上昇や春節前の輸送量の増加などによる影響で、ASFの感染リスクは高まると予想される。仮に感染が再度拡大すれば、供給の回復はさらに遅れることになる。

 中国で生活する我々一般市民の食卓は、高止まりするCPI(中国豚肉指数)の影響をもうしばらく受け続けることになりそうだ。

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