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緑豊かな空間にある燕京学堂

 中国の最高学府の1 つ北京大学。北京市内の北西部に位置するキャンパスの中に、低い塀に囲まれた緑豊かな中国庭園風の空間がある。「北京大学燕京学堂(Yenching Academy of Peking University)」だ。

 燕京学堂とは、北京大学が運営する全額奨学金型の大学院で、「『中国を理解し、世界に貢献する』、政治、経済そして社会組織における未来のグローバルリーダーを育てる(燕京学堂ホームページ)」ことを目的としている。

 2014年5月に設立したばかりで知名度は決して高くないが、知る人ぞ知るプログラムで、毎年世界各国の優秀な学生たちが集う。実際に、中国を含む約40カ国から来た100人前後の学生たちが毎年ここで学んでおり、その国籍は米国やヨーロッパ、アジア、南米、アフリカなど先進国から途上国に至るまで多様だ。先月17日には日本の東京大学でも説明会が開かれた。

 日本人もいるが、過去5年間で燕京学堂の門戸をたたいたのは7人にすぎない。その中の1人である宮﨑一騎さんは、17年9月に早稲田大学を卒業し、翌18年8月から在籍する修士課程の2年生だ。

 世界各国からどのような学生が集まり、どのようなキャンパスライフを送っているのだろうか。宮﨑さんに燕京学堂のリアルを聞いた。

充実した奨学金制度

 専攻は、政治学と国際関係学、哲学と宗教学、文学と文化学、法学と社会学、歴史学と考古学、経済学と経営学の6コース。専門教科はすべて英語で授業が行われるため、中国語のレベルは問われない。中国語ができる学生は中国語で行っている授業も履修することができる。1年間で単位を満了し、修士論文の審査に合格すれば、最短1年半で北京大学の中国学修士号を取得することができる。

 国立大学が運営する全額奨学金のプログラムとはいえ、授業の内容は「決してプロパガンダ的なものではない」と宮﨑さんは言う。中国国内の研修旅行においても、きちんと整備された大都市だけではなく、地方の貧困地域のような場所にも行く。実際に、山西省を訪れトイレも整備できていないような貧困地域の視察もしている。社会に内在する負の側面も含め、客観的に中国を理解できる人材の育成を重視しているようだ。

 学内生活は快適のようだ。中国の大学は原則的に全寮制だが、燕京学堂の学生たちもキャンパス内の宿舎で生活する。2つの寝室とバスルーム、リビングの共同スペースを有する部屋を2人の学生でシェアするタイプだ。

 授業料、宿舎費は無料で、医療保険にも加入でき、自国との往復航空券も負担してくれる。無料で行ける中国国内の研修旅行プログラムも豊富で、宮﨑さんも計14回、43日間のフィールドトリップを経験したという。さらに、毎月の生活助成金として3000元(約4万5000円)が支給されるなど、生活面でのサポートも充実している。

 1年目で単位を満了すると、2年目は学内外で比較的自由に過ごすことができる。寮を出て外に住む場合は、生活助成金以外に毎月さらに3000元が支給される。過ごし方は人それぞれで、宮﨑さんは現在、中国にある55の世界遺産すべてを訪れる予定で、各地方を渡り歩きながら中国旅行の魅力を日本に向けて発信している。

 この奨学金制度はかなりの好条件だ。私も留学時代は中国政府奨学金の支援を受けたが、修士課程時の生活助成金は1100元(約1万 6500円)で、航空チケットも自費だった。無料で利用できる宿舎も、ワンルームの部屋にシングルベッドが2つ並べてあるタイプで、お互いのプライバシーは全くない状況だった。

 このような魅力的な奨学金もあり、世界各国から優秀な学生が集まっている。19年に入学した第5期生は、42カ国・地域から来た合計124人で構成されている。内訳は、米国と中国大陸出身者がそれぞれ23%、その他の国が54%となっている。中国人の比率は毎年20%程度に抑えられているようだ。

 競争率は当然高く、入学は「かなり難しい」と宮﨑さんは言う。英語は、TOEFLであれば100点以上、IELTSであれば7.0以上と、「欧米のトップ大学に最低限必要なレベル」(宮﨑さん)が求められる。

 成績だけではなく、学業以外でどのような活動に積極的に参加したかも問われる。例えば、宮﨑さんは、国連でのインターンの経験やタイの国際NGOから派遣されてスリランカで国際選挙監視活動をした経験などがあるそうだ。クラスメートも、性暴力の問題解決に取り組む非営利団体を設立・運営し英国のエリザベス女王からヤングリーダー賞をもらったナイジェリア人、イタリアのベニスから中国の西安まで車で移動しながら4カ月かけて「一帯一路」プロジェクトの現地調査をしたイギリス人など多彩だ。

 世界各国から集まる優秀な人材とのネットワークが築けるのも、このプログラムの魅力の一つと言えるだろう。