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中国人客であふれる日本料理店

北京の超高級日本料理店「東也」

 多少高い値段を支払ってでも日本の「安心・安全・高品質」を買いたいというミドルクラスの消費者は確実に増えている。それは北京の日本食レストランの客層の変遷からも見てとれる。

 「以前と比べて、今の北京では何が大きく変わりましたか」という質問に対し、私が必ず答えるのが「日本料理屋の客層」だ。

 1990年代の北京留学時代、1食10元程度で食べることができるローカルレストランと比較して、安くても100元を超える日本料理は、当時の中国人には「高根の花」的存在だった。当時の日本料理屋の中で中国語を耳にすることはほとんどなく、客層の9割以上は日本人だったと記憶している。

 それが今では逆転現象が起きており、近年急速に増えている北京の日本料理屋は、どこに行っても中国人客であふれている。

 中国人富裕層をコアターゲットとした高級日本料理屋もある。熊本県出身の谷岡一幸氏が経営する「日本料理東也」だ。この店は、お品書きもなければドリンクメニューさえもない。客の好みや予算に合わせて、その場でメニューを作るスタイル。オーナーであり、総料理長でもあり、シニアソムリエでもある谷岡氏が組み立てる料理に加え、自社輸入した50種類の日本酒をその日の料理に合わせて提供する。「最近の客単価は5000元(約8万円)」と北京の日本料理界で群を抜く存在だ。

 また、広告宣伝も一切しない「いちげんさんお断り」で常連の紹介がないと予約も受け付けない。富裕層が自分の友人知人に紹介し富裕層の客が増えていく、というビジネスモデルだ。中国芸能界や財界人御用達の店として知られる同店では、毎回の支払いが面倒だという理由で、前金で200万元(約3200万円)を預けて頻繁に利用する富裕層もいるという。さらには「上海からわざわざ同店で食事をするためだけにプライベートジェットで北京を訪れ、数時間かけて食べ終わったら上海に戻る客もいる」というから驚きだ。

中国ビジネス成功の第一歩

 以上見てきたのは首都・北京の消費現場のリアルだが、地方都市にまで目を向けると、また違った世界が広がっているだろう。

 このように多様な国であるがゆえ、私は「中国は~だ」という断定表現を使うのが苦手だ。この国を知れば知るほど自信がなくなる。

 先進国的な一面も前近代的な一面も、北京や上海のような豊かな都市も貴州やチベットのような貧しい地域も、高級日本料理を堪能できる富裕層もごみ拾いで生計を立てている貧困層も、どこをどう切り取ってみても「中国」であることに間違いはない。「中国は~だ」と断定するにはあまりにも多様過ぎる。

 これは対中ビジネスにも当てはまる。中国でBtoCビジネスを展開する場合、単純に「中国市場」をターゲットにしてもうまくいかないだろう。どの都市で、どの層の消費者にアプローチするのか明確にする必要がある。

 インバウンドビジネスにおいても、日本を訪れる訪日中国人は基本的にはミドルクラス以上だが、その中でも様々な層に分かれている。私の知り合いでも、子供連れで地方都市を訪れる家族、買い物を目的に都市部に行く若者など多様だ。人間ドックやゴルフなどを目的に日本を訪れる富裕層もいれば、クルーズ船で来てドラッグストアで「爆買い」する格安ツアー客もいる。

 多様な中国人の消費行動を分析したうえで、異なる層へのきめ細かなアプローチが、中国ビジネス成功への第一歩だといえよう。