ETCを利用したクレジットカードの普及

 中国のETCは基本的には日本と同じタイプで、車載器にカードを差し込んで利用する。支払い方法は、翌月払いのクレジット式、あらかじめ料金を前払いしておくプリペイド式がある。

 最近ETCを使い始めた北京の友人によると、「プリペイド式は面倒だから、クレジットカードを使っている人が多い」という。

 これを商機と捉え真っ先に動いたのがETCの専用カードを提供する銀行である。特に資金力に富む大手銀行は、ETC車載器の無料配布や高速料金の5%割引、ガソリン代割引など、様々なキャンペーンをおこない顧客獲得に躍起になっている。

 ETCというツールがクレジットカードの普及に適しているという点もある。ETCを使うのは自動車の所有者であり、経済力、信用力が比較的高いと判断されやすいだろう。

 「もし誰かがあなたの車内を見ていたとしても警察に通報しないで。銀行の営業担当者が、ETCが搭載されているかを確認しているだけだから」

 このような投稿がSNS上で広く拡散され大きな話題となったほど、銀行による顧客争奪戦は熱を帯びている。私の住む団地付近にある銀行でも、入り口に宣伝ポスターが貼られ、録音した宣伝文言が拡声器でリピート再生されている。携帯電話にもETC勧誘のショートメッセージが届いた。

 なぜここまで過熱するのか。先進国と比較して、中国のクレジットカード普及率は低く、莫大な潜在顧客を抱えたブルーオーシャン市場だからだ。中国人民銀行の統計によると、2018年末におけるクレジットカードの平均保有枚数は0.49枚にすぎない。

 実際に、私の北京の友人たちもこれまでクレジットカードは使ったことがなかったが、ETCをきっかけに、日常的な支払いにまで利用するようになったという。

 あくまで私の個人的推測にすぎないが、ここに政府の隠れた狙いがあるのかもしれない。中国における消費現場のインターネット化は急激に進んでおり、その中心は、アリババの「アリペイ」やテンセントの「ウィーチャットペイ」といった第三者決済サービスである。

 近年、取引が把握しにくい第三者決済サービスに対する規制強化が進められてきたが、銀行が発行するクレジットカードによる決済が増えれば、金融当局はより直接的にマネーの流れを把握できるだろう。クレジットカードの種類も国内ブランド限定で、VISAやMastercard、JCBといった国際ブランドは利用できない。

 2000年代初め、クレジットカードが普及していない中国において、安心してネットショッピングができるようにと、アリババが第三者決済サービス「アリペイ」を開発した。その後、スマートフォンの時代が到来したことで、この第三者決済サービスを持ち運ぶことが可能となり、モバイル決済が爆発的に普及した。その時流を捉えたのが、テンセントの「ウィーチャットペイ」だ。

 そして今、クレジットカードを使った消費がようやく浸透しつつある。中国では、モバイル決済以前にクレジットカードが普及していた先進国とは異なる順番でキャッシュレスが進化している。

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