百度の自動運転システム「Apollo」を搭載した小型無人バスが街中を走り回る。
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 「千年の大計」が直面する課題

 新たな新区の建設は、大きなビジネスチャンスがある一方で、当然リスクも考慮しておかなければならない。以上で見てきたように、新区ではこれまでに無かった新たな試みも多く、達成目標が高いがゆえに課題も少なくない。

 80年代の深セン経済特区、90年代の上海浦東新区が発展した背景の一つとして、鄧小平氏、江沢民氏らが長期にわたって支援し続けてきたことがある。一方で、2000年代に鳴り物入りで開発が進められた天津浜海新区は、「建設中のビル工事がストップしており、ビルの空室が目立つ」(2018年2月9日付「中国経営報」)といった、新区内でゴーストタウン化が進んでいるという報道もみられるようになった。現政権が同プロジェクトを安定して推進し続けることができるかどうかも、新区建設の成否を左右するだろう。

 経済的なリスクの一つとして考えられるのが、水利工事の長期化に伴うコスト増である。雄安新区内には、「白洋淀」という湿地があり、「白洋淀生態環境の根本的改善」も建設目標の一つに掲げられている。

 中国環境部によると、白洋淀には汚水池やゴミ投棄などの不衛生な生態環境問題が依然として存在しており、「目標としているⅢ類(生活飲用水レベル)の水質に達するには、まだ隔たりがある」ようだ。現在、政府は積極的に水質改善対策を進めているものの、目標達成には比較的長い時間と費用を要するだろう。

 この他にも洪水など災害対策も進めており、総面積の約30%を占める水域に関する工事が長期化すれば、建設コストの高まりに加え、都市建設そのものが計画通りに進まない可能性も懸念される。

 また、非首都機能の移転を通じた北京市の「大都市病」の改善が目的の一つではあるが、大学などの教育機関、病院などの医療機関、企業の本社といった都市機能の移転が順調に進むかも不透明である。ハイテク産業の入区審査も厳しく、企業誘致にも時間がかかると考えられる。

 課題は多いが、成功したときの効果も大きい。深セン経済特区や上海浦東新区と違い、雄安新区は海や国境などから遠い内陸型都市である。中西部の内陸地には発展が比較的遅れている都市も多く、この雄安モデルが成功すれば、その経験を参考に水平展開することも考えられる。

 「千年の大計、国家の大事」と称される国家級プロジェクト雄安新区。課題を乗り越え、「深セン経済特区、上海浦東新区に続く全国的に意義のある新区」(「綱要」)となれるのか。今後も定期的に訪れ、その変化をモニタリングしていく必要があろう。

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