
互いの「歩み寄り」が重要
店舗の状況や客の反応、メディアの報道などを見る限り、表面上は順調に成功しているように見える。しかし、その裏には従業員たちによる決死の努力があった。
日本と中国という国籍や文化の違いだけではなく、製造業と飲食業という全く異なる業態の企業による合同プロジェクトが困難を極めたことは想像に難くないだろう。例えば、「具材をより多く、豪華に見せるために必要」と異なる形状の皿にこだわる「海底撈」と、「自動化で効率を上げるためには皿の種類を減らす必要がある」と主張するパナソニックCNS社。担当者は粘り強く説得を続け、最終的には互いが歩み寄り、当初十数種類あった皿は2種類に落ち着いた。
また、信頼関係構築のためには、互いの意思疎通が欠かせない。山下総経理は中国語が堪能で、現場スタッフとも通訳を介することなく自らの言葉でコミュニケーションをとる。これが重要だ。
日本企業が「上」の場合は、現地トップも通訳を通じて一方的に必要事項を伝達すればよいかもしれないが、「対等」でプロジェクトを進める場合そうはいかない。通訳を介すると、意味は通じても、感情が通じ合わないからだ。信頼関係が構築できなければプロジェクトは早晩破綻を迎えるだろう。
当然だが、今回のスマート火鍋店は始動から実際の営業まで期間が短かく、スピードを優先したため、自動化システムの水準は完全なものとなっていない。実際、私が訪れた時にもロボットアームが一時停止してしまった。しかし、従業員が一丸となりそれを感じさせないほどの迅速な対応をみせていた。システムはすぐに復旧し、オペレーションに支障はなかった。
ここに日中の大きな違いがあると感じる。もしこれが日本国内であれば、このような状態ではオープンしていないだろう。万が一のトラブルが発生した場合、顧客の不満につながり、ひいては会社の信用問題にまで発展しかねないからだ。そのため、日本で新規事業を始めようとする場合、「実証実験」という形をとり結局ビジネスにつながらないケースもある。
一方、中国人はサービスの質に対する要求が日本ほど高くない。したがって中国では、最初から製品の完成度が高まるのを待ってからスタートするのではなく、過去に類を見ない新規事業は何が正解か誰も判断できないため、とにかくやってみて、そして問題が出た時点で臨機応変に対応している。これが「実験」ではなく、「ビジネス」の中で進められていく。実際に、今回のスマート火鍋店はパナソニックCNS社側にも売り上げとして計上されている。
増加が見込まれる日中共同プロジェクト
新しい試みではどのような問題が生じるかわからない。このようなトライ・アンド・エラーを繰り返し、経験、データなど店舗運営に必要なノウハウが蓄積され次へと生かされていく。
スマート火鍋2号店は、4月に北京の繁華街「王府井」でオープン予定となっている。きっと1号店で得たノウハウが生かされることだろう。そして将来的には、スマート化を全店舗へと展開し、さらには「サプライチェーン全体の自動化」(張勇董事長)を目指している。実現するか否かは今後の更なる努力次第だ。
2018年10月の安倍首相訪中を機に日中関係は大きく変わろうとしている。これは中国在住日本人のリアルな実感だ。
ビジネス分野においては、安倍首相の「競争から協調へ」、「脅威ではなくパートナー」との呼びかけの下、「日中第三国市場協力」の推進が始まった。今後は、業種を問わず、日中両国を代表する企業が、対等のパートナーとしてプロジェクトを進めていく機会が増えていくだろう。
製造業のパナソニックと飲食業の「海底撈」。日中両国のリーディングカンパニーによる今回のプロジェクトは多くの示唆に富んでいる。
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