
「結婚」を実現したトップの決断力
「海底撈」はなぜパナソニックにラブコールを送ったのか。パナソニックは過去に飲食業の自動化の経験などほぼ無かった。名だたるロボット企業は他にもある。技術的優位性はなかったはずだ。
この二社をつないだのは、実は技術的な問題だけではない。それは、パナソニック株式会社(旧松下電器産業)の創業者である故・松下幸之助氏が後世に残した経営理念であった。
「海底撈」の創業は1994年。経営ノウハウのない張勇董事長が参考にしたのがこの松下幸之助氏の経営理念だった。張勇氏は、「私は海底撈創業前に、松下幸之助氏の自伝を読んだことがある。彼の経営理念を心から崇拝し、今でも彼の手法を多く経営に取り入れている」と述べている。
そして、この二社の協業が実現した直接のきっかけが、2017年4月、中国を訪れたパナソニックCNS社の樋口泰行社長と張勇董事長の出会いだった。張勇氏の提案に対し樋口氏は、その場で承諾したという。
この「即決」が効いた。多くの中国企業がスピードを重視する傾向にある。一方、意思決定が遅い日本企業は、世界では「NATO(No Action, Talk Only)」と揶揄されている。もしここで樋口社長が「いったん持ち帰って検討」という「NATO」的反応をしていれば、このプロジェクトは実現に至らなかったかもしれない。
その後、両トップは頻繁に顔を合わせて議論を重ねることで、プロジェクトは一気に進んだ。翌18年3月にシンガポールで合弁会社「インハイ・ホ-ルディングス」を、さらに2カ月後の5月には北京で中国市場での展開を目的とした会社「北京瀛海智能自動化科技有限公司」を設立した。出資比率は「海底撈」51%、パナソニックCNS社49%で、同社の総経理にはパナソニックCNS社の山下純氏が就任。同年10月に北京での1号店出店に至った。「出会い」から1年で「結婚」、そして1年半で「出産」に至ったこととなる。
この「スピード婚」の背景には、「トップの鶴の一声」(山下総経理)があった。「海底撈」側は早急に会社を設立しスマート化を進めたかったが、パナソニック社内には慎重な意見や懐疑的な見方が多かったという。それを突破したのが、樋口社長の決断力だった。
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