北京の街角で演奏する老人たち。おひねり入れにはQRコードが貼ってある。筆者はウィーチャットペイを使って5元を支払った。(2018年11月、筆者撮影)
北京の街角で演奏する老人たち。おひねり入れにはQRコードが貼ってある。筆者はウィーチャットペイを使って5元を支払った。(2018年11月、筆者撮影)

 昨年末、ソフトバンクとヤフーの合弁会社が展開する「PayPay」が100億円を投じた大規模なキャッシュバックキャンペーンを行い話題となったモバイル決済。すでにサービスを始めている「LINE Pay」、「楽天Pay」、「ORIGAMI Pay」など以外にも、2019年にはセブンイレブンの「7Pay」やメルカリの「メルペイ」なども参入を予定しており、大混戦の様相を呈している。

 一方、中国のモバイル決済といえば、アリババの「支付宝(アリペイ)」とテンセントの「微信支付(ウィーチャットペイ)」がよく知られており、この2社で中国市場の約9割を占める。

 中国でモバイル決済に先鞭をつけたのはアリババの「支付宝(アリペイ)」だった。今では当然のように使われているQRコード決済を最初に採用したのもアリペイだ。アリペイはオンライン決済市場の約8割を占め、一人勝ちの状態だった。

 その牙城を崩したのが、2013年8月に、中国人の大半がスマホにダウンロードしているチャットアプリ「微信(ウィーチャット)」に決済機能をつけた、テンセントの「微信支付(ウィーチャットペイ)」だった。

 中国調査会社の易観によると、2014年第1四半期におけるアリペイとウィーチャットペイの市場シェアはそれぞれ77.83%と9.55%であったが、その後ウィーチャットペイが急成長し2018年第2四半期にはそれぞれ53.62%と38.18%となっている。

 それでは後発のウィーチャットペイは、どのようにしてアリペイからシェアを奪っていったのだろうか。そこには「紅包(ホンバオ)」を使ったキャンペーンがあった。

モバイル決済普及のきっかけを作った「微信紅包」

 中国では春節(旧正月)に配るお年玉や結婚式などの御祝儀のことを「紅包(ホンバオ)」と呼ぶ。テンセントはウィーチャットを通じてこの「ホンバオ」のやり取りができる「微信紅包」を開発した。

 「ホンバオ」は、一対一のチャット上で渡すのが基本だが、グループチャット内で複数人数相手に送ることもできる。面白いのは、グループチャット内で「ホンバオ争奪戦」ができる機能を搭載したことだ。この場合、「ホンバオ」の送り手が、総額と「ホンバオ」数(もらえる人の数)を決めて送る。貰い手は、早くタップした人から順番に獲得できるが、もらえる金額はランダムに決まる。

 例えば、10人登録されているグループ上で、「総額100元のホンバオを5つ配る」と指定し送信すると、グループチャットの画面上に「ホンバオ」のアイコンが現れ、早くタップした5人のみがお金を受け取ることができる。もらえる金額も、一人目が10元、二人目が30元……といった感じにランダムに決まる。

 ゲーム感覚で「ホンバオ争奪戦」が楽しめるエンターテイメント性が受け、「微信紅包」はあっという間に中国人社会に浸透していった。

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