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 私が初めて海底撈の店舗を訪れたのは2007年、中国の生活に慣れた私にとっては「過剰」と感じるほどの接客を受け驚いたのを記憶している。

 待たせている客を飽きさせないために靴磨きやネイルサービス、パソコン利用も無料で提供し、「火鍋麺」を注文するとスタッフがダンスをしながら麺を延ばすショーなどのエンターテイメント性も兼ね備える。その後何度も店舗を訪れているが、いつ行っても大盛況。おもてなしを受ければ気持ちいいと感じるのは共通のようだ。

 一方で課題もある。サービスの質を追求すると、顧客一人に対し割く時間が増えるためどうしても労働生産性が下がる。また、今後のワーカー減に伴う人手不足と労働コストの向上も懸念されている。

 その課題解決に向け海底撈が頼ったのが、日本を代表するモノづくり企業パナソニックだ。海底撈とパナソニックは新会社を設立し、北京のCBDエリアにパナソニックの技術を用いたスマート火鍋店を2018年10月にオープンした。

 中国メディアには「無人餐庁(無人レストラン)」と報道されているが、実際に店舗に足を運んでみると、入口での受付係、オーダー係など多くのホールスタッフが客の対応をしていた。さらにはトイレにも2人ほど配置されており、話題の店舗を一目見たいと訪れる客を案内するガイドまでいるほどスタッフは充実していた。

 パナソニックの技術を使い自動化を進めているのが厨房、バックヤードで、中でもひと際注目を浴びているのが、ロボットアームを使った配膳システムだ。

 0~4度にコントロールされた無人の冷蔵スペースでは、食材棚に約60種類の火鍋の具材が盛り付けられた皿が並べてあり、前列9台、後列9台の合計18台のロボットアームが設置されている。タブレット経由で客のオーダーが入ると、前列の9台が食材棚から皿を取り出してトレイに並べていく。食材が少なくなると、後ろの9台で補充を行う。

 ベルトコンベアに載って運ばれたトレイは、最終的には配膳ロボットが顧客のテーブルまで運ぶ。皿には電子タグ(RFID)が埋め込まれており、在庫数や賞味期限の管理もデジタルだ。

 高い鮮度が要求される肉などを除き、ほとんどの具材が工場で盛り付けられ店舗に運ばれている。使用済みの皿もそのまま持ち出され工場で洗浄される。これにより店舗の厨房にかかるスタッフを大幅に削減する事が可能となった。

 これは購入を決定する際に人を介さない電子商取引(EC)や無人コンビニ、出前サービスなどとは発想が根本的に異なる。効率性を突き詰めるとリアルの店舗はインターネットには勝てない。それに対し海底撈は、パナソニックのテクノロジーを用いることでバックヤードなどの人員を極力減らし、顧客と直接接する現場の「人」の魅力を高めることで、得意のおもてなしで勝負をするという独自のスタイルを追求し成功している。

 日本と中国の企業は、それぞれの持つ強みが補完関係にある。日本企業の省力化、自動化などのものづくり力は、労働力不足に悩む中国では威力を発揮するはずである。また、中国人が求め始めた「おもてなし」に関しては、日本企業は非常に優れたノウハウを持っている。

 果蔬好のサービスやパナソニックと海底撈の提携事例から見えてくるのが、中国市場における日中両企業の共存の在り方ではないだろうか。