川内:今、私たちの社会の中に足りてないことを、介護を通して教えてくださっているように受け取ることができるんじゃないかと。それはお金とか、合理性や、成果主義では手に入らない、たどり着けないもののように思えて。
ロジックが通じない、理不尽なものと接することで。ちょっと大きく言いますと、社会がネットワーク化されてみんながスマホを持って、効率的に生活できるようになった。でも、「こんな理不尽なものは受け取れません」と拒否したところで、台風も地震もやって来るわけで。いくらお金を払っても台風は進路を変えてくれないし。
川内:そうです。
介護って、「基本、人生、そんなもんじゃない?」みたいな不合理さを強烈に見舞ってくるわけですね。だから、努力が報われる仕事と同じ感覚で、うまくやろうとすると、元気をチューチュー吸われるような気分に。
川内:そう。なので、安藤なつさんのお話につながりますが(「安藤なつさんが働いたグループホームが楽しかった理由」)、仕事としてやるなら、それを受け止めて面白いと思うことができるか。面白いというふうにとらえることでしかやれない感じなんです。
はい。
川内:だって、「うまくやりましょう」を考えたらつらくてしょうがないですよ。この仕事をしていれば、たくさんの別れとずっと付き合っていかなきゃいけないですから。「もっと自分がこういうふうにケアしていれば、どうだったのか」とか……。
ああっ、それは恐ろしい。
川内:そう思ったら、もう二度と職場には立てないですよ。
ですね。
「死を防ぐ」ことを目標にしたら連戦連敗間違いなし
川内:じゃあ、医者みたいに、ごめんなさい、お医者さんは悪くないんですが(笑)、自分がせいいっぱい頑張って、切った張ったして、後は本人の体力です、みたいな切り分けをするのも、自分としてはちょっと違う気もしていて。「死んじゃうのはしょうがないよね」ということを最初に置いて、「でも、この人はこの人らしい生き方をしたんだろうな」とか、そういうことで補強して、とらえ直しをしていくことで、見送る人、見送られる人が、幸せになれるんじゃないだろうかと。
死はもう必然なんだから、それを防ぎ得なかったというところを価値基準に置いてしまったら全敗ですもんね。
川内:もう連戦連敗ですよ。本当ですよ。一時期の阪神みたいなものですよ(笑)。
阪神ファンの方ごめんなさい!
川内:だけど、そもそも死は負けですか?と。
ということですね。
松浦:書籍は『介護奮闘記』になっているけど、最初は連載と同じ「敗戦記」だったものね。
あれは、「介護には、基本的に“勝つ”ということはないのよ、それを目指したらむしろつらくなるのよ」というニュアンスを入れたかったんですよね。でも、今思うと、本は「敗戦」にしなくてよかったですね。
松浦:うん。最後だけ切り取るとそう見えるんだ。でも、人生全体、生まれてから死ぬまでのトータルで見ると全然敗戦ではない。
というか、生まれてきただけ丸もうけというやつですね。
川内:そう思いますよね。
(つづきます)
親を「グループホーム」に入れたらどんな介護生活になるのか。
そもそも「グループホーム」とは、どこにある、どんなところなのか?
親が高齢になれば、いずれいや応なく知らねばならない介護施設、その代表的なものの一つである「グループホーム」。『母さん、ごめん。2 50代独身男の介護奮闘記 グループホーム編』で、科学ジャーナリスト、松浦晋也さんが母親をグループホームに入れた実体験を、冷静かつ温かい筆致で描き出します。
介護は、事前の「マインドセット」があるとないとではいざ始まったときの対応の巧拙、心理的な負担が大きく変わってきます。本連載をまとめた書籍で、シミュレーションしておくことで、あなたの介護生活が「ええっ、どういうこと?」の連続から「ああ、これか、来たか」になります。
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