結果として、Aさんは実家を売却してまで高額なお金を支払ったのに、親子関係が崩壊し精神的にもしこりが残り、母親は不満足な状態のまま老人ホームで生活するしかない。残念ながら、こういったケースが非常に多いのが現実です。
ビジネスと同じ心構えで
このような結果をもたらさないためにも、親が元気なうちから、お互いがストレスなく、スムーズに介護をランディングさせることが介護においての戦略目的だということを心に留めておくことが重要です。
老いは病気ではありません。若いときの状態への回復を目指すと必ず無理が来ます。
変化を受容して、親にも自分にもストレスがかからないようにすること。このコラムのタイトル「介護生活敗戦記」というのは、連載を始めた松浦晋也さんの名言「介護は撤退戦である」=(元の状態に戻るという「勝利」を目指してはいけない)から来ています。その心構えをあらかじめ持っておく。介護に入る前の、親が元気なうちから、マインドセットしておくこと。それが、撤退戦を上手に戦うために欠かせないのです。
そうは言っても、実際に介護をしていると気持ちが揺らいでしまうときもあるはずです。
ビジネスでもそうです。主力商品なのに時代に取り残され、さまざまな手を打っても売り上げが上がらない。そのとき、目先の売り上げの回復に目を奪われるのではなく、本来の目的、KPIは何だったかを思い出せるかどうか。「この商品の売り上げ回復はもう無理。顧客の満足度を損なわずに終売へ向かう方法を考えながら、代替商品を世に出そう」という発想に切り替えられるか、です。
介護においても、目の前で起きていること(親の老化の進行)に気を取られて「なんとかしなくては」と集中してしまうと、親の満足度を考えず、無理なリハビリや過剰なサービス投入に陥りがちです。
「介護の目的はあなたが頑張ることでしたか?」
「目的は、親に介護が必要になっても、良好な親子関係を維持し続けることではないでしょうか?」
ストレスがかかってきたと思ったら、上記の言葉を思い出しましょう。正しいKPI設定に繋がる代替案に柔軟に切り替えることができれば、すぐに利益が上がらない(親の回復に直結しない)としても、結果的に、親とあなたの両方にとって、“お得”かつ“コスパが高い”介護が実践できるはずなのです。
この発想ができないと、最悪の場合、あなたのお子さんにも大きな影響が発生します。最近話題になる「ヤングケアラー」のリスクは、もっと知ってほしいと思います。
皆さんの目の色が変わるお話の2つ目は、まさにその「ヤングケアラー」についてです。当然ですが、お子さんがいる方には特に刺さるようです。
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