次に、Bさんの例を見てみましょう。

・母親が元気なうちから、「親も人、年老いていけば、だんだんできなくなることや危険なことが増えていく。それが老いというもの」という心構えを持ち、公的に介護相談を受け付けている地域包括支援センターから「いざ」というときの対処法などを聞いておいた

・母親に認知症の症状が見られるようになる

・「来るときが来たな」と地域包括支援センターの職員に相談しながら、公的な介護サービスを状況に応じて増やし、母親が住み慣れた家で暮らし続けることを目指す
(母親が望んでいる生活を重視した対策を講じることで、それまでと同じような生活が続けられるため、生活の満足度は変わらない)

・要介護3になったら「将来的に老人ホームへ入るかもしれないね」と、公的な老人ホームの申し込みをしておく(Bさんも、母親も、将来の不安に対する心理的な保険ができる)

・自宅での生活が難しくなり、申し込みをしていた公的な老人ホームへ入所(ショートステイなど段階的に公的な介護サービスを利用したことで、施設や他人に介護される経験があるため、母親は入所しても混乱が少なくて済んだ)

早期の対応でコスパも高くなる

 ちょっと極端に感じられるかもしれませんが、Aさんのほうはとてもよくあるケースです。比率で言えば、Aさんが9、Bさんが1、というところでしょうか。

 Aさんの例では、かなり早い段階から母親の年金だけではお金が足りなくなります。一方で、Bさんの例では、最初から最後までほぼ、母親の年金(あくまで現状では、でありますが…)で賄うことができました。

 金銭面でお得な介護はどちらなのかは、言うまでもありません。

 ただ、介護は“お得”なだけではダメ。“お得”かつ“コスパが高い”ことが介護する側、される側の身体・精神的な負担の軽減に繋がります。なおコスパは、受けられるサービスとその価格、そして満足度で測ります。ご本人が望んでいないサービスをいくら付け足しても、満足度は上がりませんから。

 そこで「母親に届いている介護サービスの品質はどちらが高いか」と考えても、Bさんの方が“コスパが高い”介護になっていることがわかります。

 Aさんのように、介護する側が一人で抱え込み追い詰められてしまうと、ビジネスの言葉でいうならば、介護を受ける本人のよりよいケアを考えたKPI(重要業績評価指標)など考える余裕がなくなります。

 その結果、介護を受ける本人の希望よりも、Aさん自身の気持ちを優先させてしまい、「自分の言うことを聞いてくれる老人ホームが良いところ」という判断をしてしまいます。優秀な老人ホームが、「入居する本人」にとって受け入れやすい、良い提案をしても、それがAさんの意にそぐわなければ、「使えない老人ホーム」という烙印を押してしまうのです。

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