介護は極めて私的な家族の問題であり、内幕はできる限り他人に伏せておきたい。
 ほとんどの方がそう考えていると思います。事実その通りで、そこが介護に携わる専門家(すなわちご家族にとっては他人)にとって、大きな壁になっています。

 言い換えると、ご家族が、あなたが、どこまでだったら打ち明けてもいい、と考えるかによって、介護の質が大きく変わる可能性があるのです。

 今回は、私が介護においての重要なキーワードと考えている“情報開示”に関する2つのお話をさせていただきます。

 まずは1つ目の“介護と情報開示”の話です。

 介護相談で、次のような相談を受けました。

 相談者である息子さんは、認知症で老人ホームに入所している父親に、入所前まで父親が一人で暮らしていた実家(名義はすでに息子さん)の維持や管理が大変なので片付けをして売りに出していることを報告しました。

 すると父親は「私の帰るところがなくなる。売却するならば、俺のためにマンションを買え!」とすごい剣幕で怒ったそうです。その後も、なぜかその話だけは覚えていて、息子さんが面会に行くたびに「マンションを早く買え!」と責められ続け、面会に行くことがつらい、と言うのです。

 父親が、実家に帰る可能性は事実上ありません。
 タワマン、とまでは言わずとも、マンションを買うのは大変な出費ですし、住むことがない物件を買う合理性はまったくない。しかし認知症が進んだ父親に、それを説明して納得してもらうのはもはや難しい。行き止まりです。

 とても苦しい状況ですが、「実家の処分」というのは内輪の話なので、これまで息子さんは誰にも話せなかったそうです。しかし、面会のたびに言い合いとなる父親との対峙に疲れ果て、私のところに相談に来ました。

第三者である施設の担当者に相談しましょう

 私の答えは
「その話、全部、施設の相談員に話してしまえばいいんじゃないですか?」  でした。

 息子さんだけでこの問題を解決しようとしたり、抱え込んだりはせず、
「実は、実家を売るならマンションを買えと言われています。そんなことを言う父親の思いはどういうことなのでしょうか? 家族として、どこまで対応すればいいのでしょうか?」
 と、まるっと打ち明けて、介護のプロである専門家(この場合は施設の相談員)のアドバイスしてもらうのがおすすめですよ、ということです。

 家族は父親の発言をつい正面から受け止めて対応しようとしますが、客観的に見ると「父親は、その施設内での不安や不満な気持ちを息子さんに向けて発散しているのでは?」という仮説が浮かんできます。

 介護者は、要介護者の言葉に対して「どのような想いからそのような発言につながっているのか?」ということを掘り下げる必要があるのです。

 おそらく、本当にマンションを購入しても、父親の施設、あるいは他の何事かへの不満・不安が解消されていなければ、別の事柄で息子さんが責められることになるでしょう。この場合、父親の不安や不満の気持ちを施設側も知り、「どうやって気持ちのフォローをするのか?」ということを一緒に考えていくのが大切になります。

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