「テレワーク」と「家族介護」。この相性はものすごく悪い。
コロナ禍により、現在はテレビ電話で実施中の個別の介護相談を受けるたびに、改めて、こう実感しています。
テレワーク、つまり自宅仕事は、在宅介護をするのにぴったりに思えますし、会社側も「仕事しながら、介護もできるのでは?」と、推奨しているかもしれません。
しかし、それは大きな間違いです。
テレワークで在宅勤務になり、要介護者にとっては、声を掛ければすぐに対応してくれる距離に家族がいる状況が生まれます。となるとどうしても、それまでは自分でできていたことまで、家族に頼ってしまうことになります。
その結果、要介護者が自分でできることがどんどん減っていき、家族の負担が増えます。さらに、声を掛けられるたびにテレワーク中の家族は仕事の手が止まるため、仕事の質も低下するでしょう。会社でだって、しょっちゅう中断されたら仕事ははかどらないですよね。「今忙しい」と言いにくい家族相手ならば、なおさらです。
テレワークのために、かえって仕事と介護の両立に困難を感じる人が増え、すでに“介護離職を考える”社員がどんどん現れている肌感覚があります。
「この人は介護離職を考えている」と思ったら
そんなときはどうするか。今回は、「この人は介護離職を考えている」と感じた人に、私が最初に行う“対応メソッド”をご紹介します。
この“対応メソッド”は、介護経験や介護の知識の有無に関係なく誰にでもできることです。もし、“介護離職を考えている”同僚、部下から相談を受けた際には、ぜひ、試していただければと思います。
最初にお願いするのは、これです。
1:今の状況を口頭で説明してもらう
もしあなたが人事・総務の方で、私のように相談を受ける立場ならば「会社(私)としてもできる限りのことをしたいので、今の状況を思いつくまま、だーっと説明してみてください」と伝えるのです。同僚や友人の場合ならば「大変そうだね、心配だから、よかったら今の状況を聞かせてくれない?」で十分です。
細かい話ですが、とくに男性の場合には、「今の状況を説明」という、客観性を持たせた言い方がいいようです。事情、様子、具合など、「個人的な話をする」ような言葉が出ると、口が重くなる傾向があります。
要介護の親に頼み事をされる回数や頻度、毎日何時間くらい寝ているのか、など、数字を切り口にするのも有効です。
2:説明を聞く中で、その人が一番困っていることが可視化される
口頭で説明してもらうことで、その人の気持ちの抑揚が見えてきます。表情にも注意しましょう。どこがその人の一番の困りごとになっているかが可視化されるのです。
3:可視化された「介護で困っていること」を聞く
実は「介護で困っていること」を、人に話し、聞いてもらうことこそが、相談者の救いになります。
私の相談でも、口頭での説明を終えたあと「介護の悩みを話せる相手がいなかった」と、みなさんが口々におっしゃるのです。個人的な話だから、他人の時間を取って打ち明けるのは申しわけない。あるいは、相談したところで何も変わらない、と思っている。しかし実際は、悩みを口に出すだけで、相当、その重みは減るのです。
前回のコラムでお伝えした“親孝行の呪い”にも通じるところがありますが、「『介護をしている親に対して、こんなヒドイことを考えてしまった』と、話せる人がいなかった」と、時に涙ながらに話す人も少なくありません。心に抱え込んでいた思いを吐き出す「だけ」でも、その人にとっては涙を流すほどの大きなサポートになります。
アドバイスする必要はありません
聞く側のあなたは、「相談されているんだから、何かアドバイスしなければ」と焦ってはいけません。大事なことは、「否定」しないこと。介護経験がない場合「親に対して、そこまで思うか?」と仮に感じたとしても、そのまま受け入れて、最後まで話を聞くこと。そして聞くことだけなら、介護の知識も経験も必要ないのです。
聞いただけではなく、何か前向きなことをしてあげたい、と感じたならばどうするか。
「今、話したことをそのまま、地域包括支援センター(以下、包括)の職員や担当ケアマネジャーに伝えてみてください」と、相談者に伝えましょう。一度言葉にしたことならば、二度目はかなり抵抗感も薄れ、話の筋道も整ってきますから、先方も対応しやすいはずです。
「状況」を聞く→「否定」せずに受け入れる→「包括」につなぐ
これだけでも、介護離職者の数はかなり減ると考えています。
逆に、「個人的な悩みだから、みんな自分で解決するしかないよね」「君の人生まで会社は責任は持てない」といった、孤立感を深める言い方や、親を介護する苦しみを「でもみんな越えている道だから」「君も年を取れば同じことになるんだし」「仮にも親に対して、そんなことを思うべきじゃない」といった、「親孝行の呪い」をさらに掛けるような言動は、絶対に避けるべきです。
「ファンタジスタだ」と感じ入った介護離職防止策
企業の方からの相談を受ける中で「これはもう、介護離職防止のファンタジスタじゃないか?」と、言いたくなるような、パーフェクトな対応をされている担当者に出会ったことがあります。
この方の対応をざっくり言ってしまうと、相談に来た社員に、包括や担当ケアマネジャーに相談するために、介護休暇や介護休業を利用するよう、提案されていたのです。
「なんでその程度がファンタジスタなんだ?」と感じる方は、文章を読み直してください。「介護休暇や介護休業を使って」というところ、ここがポイントです。
そう「有給休暇」ではなく、介護休暇や介護休業を使って「要介護の家族のためになる」対策をプロと一緒に考えてもらうように促すのです(コロナ禍で直接会うことが難しい現在は、電話での相談を提案してみてください。もしかしたら、直接会っての相談を提案するよりスムーズかもしれません)。
もしかして、まだピンとこないでしょうか。
介護は「個人的なこと」ではない
この方がすばらしいのは、たいていの社員が「介護は個人的なこと」と思い込んでいるのを理解していることです。外部の支援、まして会社のサポートを要請するなんて、と、自分で抱え込もうとする。それは必ず破綻し、その結果介護離職が起きる。
そもそも、相談者本人が包括やケアマネジャーに「親のことを考えると、自分から相談しづらい」「まだ、自分だけで頑張っていける」と、外部サポートに二の足を踏んでいるケースは少なくありません。仮に、一歩踏み出そうとしても「まずは有給休暇を使ってから」となるわけです。
そこを、会社側から「介護で外部サポートを受けるための準備は、立派な『介護休暇』の対象です」と提案することで、「介護はあなただけが抱え込むことではありません。会社は、あなたたちの介護をサポートしますよ」という姿勢をはっきり見せている。ここがすばらしい。
さらに、「あなたが言いづらいのであれば、今聞いた話を包括やケアマネジャーに私から話をしてもいいですか?」と伝え、「うちの社員が親の介護のことで悩んでいる。ついてはそちらで相談に乗ってもらいたい」と、電話で伝えている。もう満点です。
そして実はコレ、包括やケアマネジャーにとっても、非常に喜ばしいことなのです。相談者が働いている会社の雰囲気までは彼らは知ることができません。
「職場は協力的だ」という姿勢を現場のプロに早い段階から知ってもらうことができれば、その後の介護の体制づくりに際して、「これこれを職場に相談してみては」というアイデアが出しやすくなり、相談者にとっても、仕事との両立がスムーズに進んでいくのです。もちろん、企業にとっても社員の生産性を維持できることになります。
生産性よりも重要なのは、ここまで、人事・労務の担当者や上司が対応してくれることで、社員が「この会社は、自分のことを大切に思ってくれている」と、感じることです。相談者は介護離職を踏みとどまり、仕事と介護が両立でき、会社も大切な戦力が失われないばかりか、社員全体の会社に対する帰属意識やロイヤルティーを高めることができるでしょう。
まわりの対応で介護離職は必ず減らせる!
働く人にとって一番身近なコミュニティである職場、そこでの相談役である人事・総務担当者や上司が早い段階からサポートできれば、望まない介護離職は確実に減らせるのです。
もしこうした手を打つなら、早ければ早いほど有効です。早期にプロに相談すればサポートが充実し、それによって家族のストレスが減り、なにより介護を受ける側の抵抗感が少なくなる。連載で何度もご紹介している通りです。
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