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「新型コロナ禍の最中だし、施設入所は遠慮すべきでしょうか?」

 「まさか、このコロナ禍の最中に父が特養(特別養護老人ホーム)に入所するとは思いませんでした」

 このコラムをまとめてくれているライターの岡崎杏里さんが、オンラインでの打ち合わせでこうつぶやきました。私は反射的に「なぜ『まさか』と思ったのですか?」と聞いてしまい、それに対して岡崎さんは「現場が大変なときに、まさか新しい人を受け入れてもらえるとは思わなかったので…」と答えました。

 岡崎さんは特養への入所を申し込んでから、たびたび施設に電話をして順番を確認していたのに、最近はそれも控えていたそうです。

 20年以上お父さんの介護をしている岡崎さん。経験が豊富にもかかわらず、「電話することすら、遠慮する気持ちが芽生えてしまうものなのか」と、驚きました。

 多忙な現場を気遣うのは大事なことですし、遠慮や謙譲は日本社会の美徳でもあると思います。ただ、介護事業の運営に関わった経験からすると、もちろん配慮は必要ながら、過度に我慢するのは介護者(この場合は岡崎さん)、被介護者(お父さん)、そして、介護事業者のためにもよろしくない。それを今回はお伝えし、「あるある」な誤解を解きたいと思います。

経営的に考えれば、空きは絶対つくりたくない

 まず、介護関連に限りませんが、固定費を投じた設備の稼働率が下がることは、どんなビジネスにとっても望ましくないことです(様々な例外はありますが、ここは一般論としてお考えください)。

 ごく単純に例えれば、ホテルが空室ばかりになってしまったら潰れてしまいます。介護施設であっても、コロナ禍であろうがリーマン・ショックであろうが、経営面から考えれば、施設に“空き”が出れば収益が悪化してきます。国の制度はそこまで事業者に優しくないのです。

 そして、もしも施設が潰れてしまったら、入居している利用者さん、さらにはご家族が大変な苦境に陥ることは明らかです。大切な入居者さんの終の棲家でもあるので、赤字になったからといって簡単に閉鎖することはできません。

 皆さんがお勤めの企業と同様、介護施設もビジネスです。稼働率が低い期間が長引くと介護施設の経営が立ち行かなくなってしまいます。一般的には「満床」、フル稼働を前提にスタッフをそろえているため、空きがあるとあっという間に収益が悪化します。これを避けるには優れたスタッフでも解雇する必要があり、それが利用者さんの満足度を下げる、という悪いスパイラルが始まってしまうのです。

 ですので、長期入院された入居者の方やそのご家族の了承を得た上でですが、空室がある間はショートステイ(短期利用)を受け入れるなど、空室を出さないための経営努力をしているのです。