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 日本全国のあらゆる医療機関に問い合わせをして、治療に向けて取ってきたアクションについて話しをされていましたが、奥様のお気持ちやご自身の気持ちについての言葉が出てきません。

 「お話を聞いて私が一番心配なのは、奥様ではなく、あなたが先に倒れてしまうことです」

 とお伝えすると、

 「できる限りのことをするしかありませんから、私は大丈夫です!」と胸を張ってお答えになりました。
 アラートが頭の中で鳴ります。

 もしやと思って聞けば、介護サービスを一切使わずにたった1人で奥さんの介護をしている、とのことでした。

 この方はすでに疲弊しきっている様子が見えていましたが、それも道理です。

 ご自身の体調を整えるために、まずは奥さんにショートステイの利用などを勧め、日々の生活の中にも介護サービスなどを利用されては、と提案しました。

 すると、「自分はまだ大丈夫で、人に頼らなくても、妻の介護はできる。私の頑張りが足りないから、妻の状況はどんどん悪化してしまうのだ」と、悔しがります。

 私の提案に対しては、「他人に介護をしてもらうなんて、妻がかわいそう。常に自分が近くにいて介護するのが一番だ」と。

要介護者のご本人にとって、何が一番大事なのか

 この方が、奥さんを大切に思う気持ちは痛いほどよく分かります。

 ただ、そこには「妻は自分が面倒を見るのが一番」という自分の価値観があり、それを重視するあまり、奥さんを支えるための介護から、自己満足を優先する介護になりつつあり、すべてを1人で抱え込み、手が足りず、体力も減ってもがき苦しんでいるように見えるのです。これでは誰も幸せになりません。

 奥さんは大の犬好きで、元気な頃は犬と一緒の布団で寝ていたそうです。今も「犬と一緒に寝たい」と言っているそうなのですが、末期がんの奥さんは抵抗力が低下しているので、この方はそれを止めた、といいます。

 抵抗力の低下している人にとって、動物が近くにいることが心配なのは分かります。でも、奥さんはそれを理解したうえで、病気で不安な気持ちを癒やしてくれる犬と一緒の時間を過ごすことを望んでいるのかもしれません。

 もちろん、奥さんを心配しての決断です。しかし、この方は今、何か一番大切かを見失っているように思えてならないのです。

 彼は、「妻の寿命を少しでも延ばすことができる先進医療や名医を教えてほしくて相談に来たのに、いつまでたってもそのことに触れない」と、いら立っているように見えました。