
「岡崎さん、その後もご両親の介護が続いていますね」
「はい、正直言って大変なんですけれど、その時々で対応していくしかないみたいです」
この連載をまとめてくれているライターの岡崎さんのお母さんが倒れて認知症のお父さんの在宅介護が困難になりました。岡崎さんは、お父さんが安心して入所できる特別養護老人ホームを探し、その様子をリポートしてもらいました(記事は「実録・父のために介護施設7カ所を一気に見学」、「あえて問う、あなたの親に『個室』は必要か?」)。
その後も岡崎さんは、ご両親の介護と息子さんの育児を抱えたダブルケア(育児と介護が同時進行)の生活を続けています。
それで、冒頭のやりとりになったわけですが、ここに大きなヒントがあります。
介護の話を伺う際に「大丈夫です」というような言葉を聞くと、私は「この方は大きな問題を抱えているかもしれない」と考えるクセがついています。
ちなみに「大丈夫ですか」と聞かれると、反射的に「大丈夫です」と答えてしまうことがあるため、そういう聞き方は避けます。話の中で「大丈夫です」「何とかやれています」「私は大丈夫なんですが、母が……」という言葉を敏感に受け止めるようにしています。
20年以上の介護歴を持つ岡崎さんは、私の問いに「正直言って大変だ」と答えました。「大丈夫です」と言わない岡崎さんに、少し“ほっとした”のです。
経験を通して、介護は「大丈夫」と言う人ほど「大丈夫ではない」という現実をたくさん見てきました。実際、見るからに大丈夫そうでない人でも「大丈夫」と言うものなのです。この場合、ご本人はすでに現状を客観視できなくなっており、すべてを1人で抱え“いっぱいいっぱい”もしくは、“介護者が倒れる寸前”になっているケースが多い。
火の車でも「大丈夫です」と言ってしまう
岡崎さんのように「大丈夫ではない」と言っている人の方が、実は自分の置かれている状況を客観的に見ており、そして「大丈夫ではない」からこそ、人に助けを求めることができるのです。だからこそ、大変ながらも岡崎さんは、まだ大丈夫だと思ったのです。
これを、今はまだ介護が身近でない人であっても、ビジネスシーンに置き換えるとイメージしやすいかもしれません。
例えば、経営は火の車で「大丈夫ではない」のに、そこは見ないようにして、表向きは「大丈夫」と“粉飾決算”をしてしまっているような感じです。いつかは必ず「大丈夫ではない」状態が表沙汰になり、最悪の場合は、その会社は倒産することもあるでしょう。
早くから「大丈夫ではない」部分に目を向け、対策を打つことができれば、倒産は免れるかもしれません。問題を客観視しないでいるうちに、どんどん状況は悪化していきます。
話を介護に戻します。
末期がんの奥さんを献身的に介護されている方から相談を受けたことがありました。相談内容は「いかにして、妻の寿命を延ばすか」というものでした。
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