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 「川崎で児童ら20人を殺傷」(2019年5月28日)や「元農林水産省事務次官による長男殺害」(同年6月1日)など、ショッキングな出来事が続きました。

 私は企業で社員の方の介護相談をしているのですが「実は、親と同居している、ちょっと気になるきょうだいが実家に引きこもっているのですが……」と、「介護」をきっかけとして、「8050問題」の相談に発展していくケースが増えています。

 「8050問題」とは何か。「長期間の引きこもりをしている50代前後の子どもを、80代前後の高齢の親が養い続けている」ことで発生する問題です。

 引きこもっている子どもは社会との接点がないため、面倒を見てくれている親が病気や要介護状態になっても、誰にも助けを求めることができず、親子共倒れになるリスクが懸念されているのです。

 1つ注意していただきたいのは、今回の事件で「引きこもり=危険人物」と誤解されている方がいらっしゃいますが、彼らが大きな問題を起こすことは稀です。また「引きこもりになるのは本人の自己責任」と片づけるのも賛成できません。むしろ私たちが彼らを意図せず社会から排除し、放置してきたことで起きた結果の現象が「引きこもり」ではないかと考えています。

「引きこもり」と「介護」の同時発生は珍しくない

 最初に、「引きこもり」になってしまう原因は何なのか考えてみましょう。理由はさまざまですが、子を持つ親の立場にある方に、ぜひ心に留めておいていただきたいのは、発達障害や精神障害に対して、適切なケアを行うことの重要性です。

 日本の社会は、重篤な障害など生きるうえで大きな問題を抱える人に対しては、何らかのサポートを行う体制がかなり整ってきました。一方、生きることに不自由を抱えている人でも、周りが気づきにくい種類の障害で、本人や家族が声を上げないと、支援が受けられません。このため、学校は普通に通えますが、就労が困難で、やむなく引きこもりになってしまう。そういうことがあるのです。

 決して容疑者を擁護するわけではありませんが、報道によると、川崎の事件の容疑者は学生時代から、日常生活の中でさまざまな問題を抱えていたといわれています。

 私は在宅介護の現場で働いていた10年以上前から、「これは大変な問題だ!」という認識を持っていました。

 ある要介護状態のご主人の訪問入浴に伺ったお宅には“開かずの間”があり、奥様から「あの部屋の前は、静かに通ってください」とお願いされました。奥様によると、“開かずの間”に引きこもっている息子さんは長らく仕事をしておらず、ご主人の介護にも非協力的だということでした。

 私が介護現場で働いている当時から、こういった状況はすでに、珍しいことではなかったのです。そのため私にとって「8050問題」はすぐそこにある問題として、常に危機感を持ち続けていました。

 さて、冒頭の企業での個別相談に戻りましょう。