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「きょうだいの引きこもり問題」はソーシャルワーカーへ

 さて、こういう個別相談では、例えば「介護の前段階として、まずはきょうだいの問題を解決しましょう」とご提案します。

 もちろん「いや、まだそこには触れたくない」という返事をされる方もいらっしゃいます。そういう場合は、福祉は考えているより身近なもので、もっとSOSを出したり、頼るべきだとご説明します。ご本人の意向に沿って、最初は「親の介護問題」をきっかけにケアマネジャーと連携をしつつ、「引きこもりのきょうだい」の問題を併せて解決できるように、保健センター(保健所)や行政の障害福祉課などにアプローチして、専門機関を受診してもらう流れを作るようにしています。

 「親の介護問題」に関連したサポート、という位置付けなので、ケアマネジャーにかかる負担が大きくなります。意外かもしれませんが、ケアマネジャーの研修では「家族の支援」についても学びますので、これは当たり前のスキル、ではあります。

 しかし、正直に申し上げれば、多職種が連携する必要があり難易度の高い支援だと思います。よい結果につながるかどうかは、担当ケアマネジャーの資質に左右される部分が大きい。

 それでも、もしあなたが一連の事件でなんとなくでも危機感を抱いたならば、どうか一歩踏み出して、誰かに相談してください。きょうだいのことであれば、地域の保健センター、ひきこもり地域支援センター、親のことであれば地域包括支援センターなどがその相談先となるでしょう。

 勇気を持って一歩を踏み出したにもかかわらず、窓口で「〇〇という“診断”がない限りは支援ができない」と言われてしまうケースもあります。それでもどうか立ち止まらず、医療機関に相談へ行ってください。「大人になっても“発達の問題”を相談できますか?」という質問もよくありますが、メンタルクリニックなど対応可能な医療機関で診断を受けることが可能です。

 たとえ最初に相談した機関では期待が持てなくても、引きこもり支援のNPO、当事者団体などがそれぞれの地域にあります。できる限りさまざまなサポート機関に相談してみてください。

「引きこもり」こそがSOSのサイン

 引きこもりの人はSOSが出せない、と申し上げました。しかし考えてみれば、引きこもっていること自体がSOSです。

 「引きこもりのきょうだいはいるけれど、まだ何も問題が起きていない」と考えるのではなく、「問題が起きていなくても引きこもっている」状況で、誰かに相談していいのです。実はすでに問題は起きています。社会的に孤立している時点で、深い悩みを抱えて、社会的サポートが必要な状態なのかもしれません。

 そして、こちらが「孤立している」と思っている人は、「社会に排除され、理不尽な目に遭っている」と思っているかもしれません。その状態で、怠け者というレッテルや「努力が足りない」という社会の圧力、さまざまな攻撃を受け続けて生きてきたのです。

 普通に考えて、そんなふうに自分を拒絶している相手(社会)にはSOSを出せません。結果として、自分の居場所は、親が守ってくれる家の中にしかなくなってしまったのです。ですから、「引きこもり」自体がSOSなのです。

 たとえ、福祉のプロであっても「自分を拒絶している側の人間だ」と思われていたら、アプローチは一朝一夕というわけにはいきません。じっくりと信頼関係を築く時間が必要になります。そのためにも、「親の介護」と同様に、「まだ問題が起きていない」と思っている段階から、何かしらのアクションを取ってもらいたいのです。もちろん、直接自分自身が関わらず、プロを頼り、外側からサポート体制を考えることも1つの手段です。

 そして、これはずるい言い方に聞こえるかもしれませんが、もしあなたが「自分自身の関わり方を最低限にしたい」と考えるならば、早めにこういう対応を取ることが必須です。

 このコラムを読んで、ご自身の家族の中に「SOSが出せない人がいる」ということに気づく方が一人でも増えたら、と祈っております。

 母親を単身介護している松浦さん。最初の「見逃し」から始まったトラブル、いくつもの反省、後悔、そしてそこから生まれた教訓を赤裸々に語った連載がこの「介護生活敗戦記」です。連載をまとめた単行本が『母さん、ごめん。 50代独身男の介護奮闘記』として出版されました。

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