前回の「品川の介護施設殺人に思う、人員不足の怖さ」では、人手不足が介護施設に与える大きな悪影響と、そういう施設を避けるための5か条をお話しました。

 この5カ条があれば、少なくとも人手不足によるトラブルが起こる可能性は低い施設といえましょう。でも、私にはそれ以前に、「親の介護を老人ホームにお願いしよう」と思ったら、まずあなたに“時間”をかけてほしいこと、があるのです。

 それは何か。施設に入居する本人、「親の価値観を知ること」です。

 メディアの施設選びについて言いたいのもここです。「施設を研究する前に、まず、目の前の親と向き合っていただきたい」と思うのです。

 私は、できることならば、ご本人がお元気なうちから、親の、一人の人間としての価値観を知る機会を作っていただくことが一番大事だ、と思います。

「自分の知らない親を、介護スタッフに教わりました」

 父親も母親も、あなたの前では“親”としての役割を担っています。あなたも子どもとして、それを見続けているので、あなたの中でも「親はこうあるべきだ」というイメージがあるでしょう。

 でも、親を一人の人間として見たとき、あなたのそのイメージと必ずしも一致しているとは限りません。

 このコラムの編集をしているYさんがこんな話をしていました。

 「遠距離介護が始まって2年、それまでよりも母親との距離が縮まってきたと思っていたのですが、先日、担当のケアマネジャーさんから『お母さんは、とにかく人が好きなんですね。訪問介護、デイケア、リハビリと、人との接点が増えるほど元気になってきましたよ』と言われたんです。見事な要約です。まあ、おしゃべりが好きとは思っていましたが、人との接触で、精神や体の健康にまでこんなに良い影響が出るほどとは……」

 他人であるケアマネさんから、自分の母親のコアな部分を言われたことで、正直少し嫉妬もしたとのことですが、それにより母親を「お母さんはそういう人なんだ」と改めて捉え直すことができたそうです。これは、今後Yさんがお母さんの施設入居を考える際に、とても重要な基準になります。

 介護シーンでは自分が親に替わって、たとえば「この施設にしたい」と、決定をせねばならないときがやってきます。そのときに、親は何を幸福と感じるのか、を知らないと、怖くて決断ができなかったり、後悔することが出てきます。

 「どんなことをすれば、お母さん(お父さん)の人生の満足感につながるのだろうか」
 こうお考えになったことはあるでしょうか。

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