食事の種類も、食べ具合も、一人ずつ注意がいる

 配食も「同じものを並べる」というわけにはいきません。
 その方の状態により、「普通食」「刻み食」「流動食」と、それぞれ食事の形状が違います。それをしっかりスタッフが把握して、一人ひとりにきちんと配られているでしょうか。

 そして、食事の進行の見守りがあります。
 食事のすべてに介助が必要なのか、半分介助なのか、声掛けだけで大丈夫なのか、完全自立なのか、多様なケースにスタッフは対応せねばなりません。「おいしくない」「違うものが食べたい」という言葉にも対応して、場を和ませたりもします。食事が終わったら、口腔ケアができているかの確認。誤嚥性肺炎を防ぐためにも重要です。

 食事が終わったら、お部屋やリビングへ移動。
 居室に戻ってもらうときも、一人ずつ見守りが必要です。

 これを1日に3回繰り返すのです。このほかにも、夜間の対応、入浴介助、排せつ介助など、こまやかな心配りと体力、注意を払っている眼の数が必要な仕事がいくらでもあるのです。

 介護施設がお預かりした方の生命を守り、快適に過ごしていただくためには、どうしても一定数以上のスタッフが必要で、それは法律でも定められています(最低基準は入居者3名に1人の介護職)。

 こういうハードな状況下で、「足りない人員数、慣れないスタッフ」という状況を放置している施設では、入居者の方はもちろん、介護する側にもストレスがたまることは、容易にご想像いただけると思います。

 だからといって暴行などが許されるとは、もちろん思っておりません。人員不足が「異常事態が発生するリスクを高める」という点を、改めて知っていただきたいのです。

 どうしても人手が足りない場合、施設には、派遣業者さんへ依頼して急場をしのぐという手もあります。ただしこれが常態化すると正社員を雇用するよりコストがかかりますし、スキルの蓄積が難しい「日替わりスタッフ」になってしまうことも少なくありません。

問題点は分かっても解決は難しい

 こんなふうに問題点を指摘することはいくらでもできますが、では、どうしたらいいのでしょう。

 自分自身の微力をいつも痛感しますが、本質的な解決策は「事業者が、職員の生活とモチベーションを向上させる長期的な施策を講じて、定着率を上げ、スキルアップを図る」ことしかありません。

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