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 この結果、「なるほど、理由はあるんですね」とご家族も納得できたので、いつも行くスーパーに同行して事情を話し、お父さんには好きなように卵を購入してもらって、後から買い過ぎた分を返却させてもらうようにお願いしました。問題行動を無理やり止めるよりも、その人の心の安定を最優先で大切に考え、その対処法を検討する。それがプロが持つべき客観的な視点であり、ご近所やなじみのスーパーなど周囲の協力を引き出しつつ解決策を導き出すのが、プロの介護というもの、だと思います。

 お父さんは卵を好きなように購入できるようになり、心が安定していきました。息子も卵のことで父親と揉めることがなくなり、心の余裕が生まれました。気がつけば、認知症の父親にも、それを介護していた息子にも、お互いに笑顔を見せる心の余裕が生まれていたのです。

 他人であるからこそ、マイナスの感情にとらわれず、プラスの感情のやり取りを引き出して、介護者と被介護者のお互いにとって豊かな時間を作る。そんなことも、プロの手を借りれば可能となるのです。

家族でなければできないことに、集中しましょう

 では、家族はどうするのか?

 いくらスキルはあっても、プロは介護する方と昔の記憶を共有していません。お父さんが週末に釣りに行っていた川に出かけて、水辺を眺めながら昔話をする、地域のお祭りに一緒に行って、幼なじみとの会話を横で一緒に楽しむ。介護のプロは、そういうことはできません。お父さんに心豊かな時間を作り、笑顔を生みだすことは、家族にしかできない大切な介護なのです。そのためにこそ、「開き直って」でも心の余裕を持てるように、家族であるあなたは考えるべきなのだ、と思います。

 最初のお話について、最後にもう一度申し上げます。地域社会や商店、交通機関に迷惑をかけてでも親のやりたいようにさせよ、ということを奨励したいのではありません。でも、「そこまで開き直る手もある」と思うだけで、気持ちは楽になるのではないでしょうか。「親への期待」に対して、早く、深く開き直れるほど、プロの助けを借りること、プロの介護の価値を引き出すことがやりやすくなります。

 いささか不適切な例だったかもしれませんが、介護される人の希望をくみ取り、できる限りは叶えることの重要さ。平時のルールや常識的な親への期待は、介護という老いの変化の中で、あなたを過度に苦しめてしまうことがあること。そして、「開き直る」という選択肢も残っていることを、ぜひ頭に入れて、介護戦線に臨んでください。

 引き続き、Raiseの「“みんなの”介護生活奮戦記」まで、疑問や質問、ご自身の悩みもどしどしお寄せください。こんなテーマを知りたい、話したいというご要望もお待ちしています。