肉親による介護を勧めたくない理由

 「子どもは老いた親の面倒をみるもの」という親の考え方に従うケースや、育ててもらった恩を返そうと考えるケースなど、理由はさまざまですが介護する子ども(特に男性に多いようです)が、家事やケアを自らが習得して、プロ顔負けの介護を親にしてあげる。これは、実は大変よくあることです。

 もともと「親子関係」には、肉親による介護を肯定する要素が含まれていますし、「家族以外の人や社会に負担をかけたくない」という、実に立派な(皮肉ではありません!)思いでそうされる方も多い。ある意味、社会がそういう行動を後押ししている、と思います。だからこそ、あえてコメントを引用させていただいて「事実」だとご理解いただきながら、何度でも声をあげねばと思いました。

 なぜ、肉親による直接的な介護を勧めたくないのか。

 ビジネスであれば、必要な知識やスキルを自ら習得していき、成果を挙げ、上司から評価され、出世につながっていくかもしれません。しかし残念ながら、「介護」においては、自らがプロ顔負けのスキルを身に付ければ付けるほど、「敗戦」につながってしまうのです。

 理由を述べましょう。ひとつは、親のために自分が家事をしたり、ケアをしたりすることは、実は親がまだ自分でできることや機能向上の機会を奪ってしまっているかもしれないからです。

ヘルパーは「プロだから、手を出さない」

 ヘルパーが行うプロの介護が「お手伝いさん」と違うのは、ここです。自分がやれば手っ取り早いとどんなに思っていても、要介護者が自分でできることは自分でしてもらう、と判断し、手を出したい気持ちを抑えるのが、ヘルパーの“矜持”であり、仕事です。

 でも、そんな百戦錬磨のヘルパーでも、自分の親に対して、その、いわば「プロの冷徹さ」を保つのは難しい。いや、自分自身を顧みて「無理」だと断言できます。どんなに能力の高い介護関係の人間も、自分の親だけはみてはいけない、というのが私が知るプロたちの間では常識です。

 スキルを身につけ、頼めば何でもやってくれる貴方に、親は、老いや死への不安をぶつける形で甘え、関係性を強化しようと、要求がどんどんエスカレートします。臆測ではなく、私が見聞した限り、そうなるケースがほとんどです。

 貴方がもし不器用ならば、そして、仕事や趣味を通してでも自分の限界を知る経験をしていたなら、まだ間に合う時点でブレーキをかけられるかもしれません。「もう無理だ」と。

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