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 初めまして。NPO法人「となりのかいご」の川内潤と申します。ライターの岡崎杏里さんとご一緒に、今回から「介護生活敗戦記」の中で、「仕事と介護の両立」をしていくコツをお話しさせていただければと思っております。

 自分も会社員として働き、在宅・施設で介護職を経験したのちに、企業での介護セミナー・相談会をやらせていただいたことで、たくさんの会社で「仕事と介護の両立」に悩む方々がいることを知りました。そうした方々とお会いして、お話を聞いて、アドバイスをする。その活動を通してNPO法人を設立し、介護離職を減らす活動も行うようになりました。

 「両立のためのコツ」は、その経験を経て得たものです。
 では、コツとは何か。
 「まじめな会社員としての考え方」を、こと介護に関しては捨てる……必要はありませんが、一時、わきに置いておくこと。これが重要です。

 言い方を替えれば「まじめな会社員」が仕事をするような気持ちで介護をしてはいけません、ということです。

「となりのかいご」について

 私が代表を務めるNPO法人「となりのかいご」は、「家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ虐待してしまうプロセスを断ち切る」をミッションに、2008年(当時は市民団体)から活動を続けています。

 この団体を立ち上げたきっかけは、私が介護の現場で働いていたとき、在宅介護において介護をひとりで抱え込み過ぎたことにより、介護者が心身ともに余裕を失い、介護をしている人に手を上げてしまう場面に直面したことでした。「虐待に至る前に何かできることはないだろうか」と、考えるようになったのが原点です。そして、「必要なのは、介護する人へのサポートだ」ということに気がついたのです。

 2014年にはNPO法人となり、「仕事と介護の両立」をテーマに企業や地域でセミナーを開催。個別相談や問題解決に向けたサポートも行っています。ここ最近は企業に出向いて、社員の方々ができる限り介護離職をせずに「仕事と介護の両立」をしていけるよう、ご相談者様と一緒に考えていく機会が増えています。不定期ではありますが、介護の悩みを抱えている方同士が自分の言葉で介護の悩みを語り合うワークショップなども実施中です。

 2018年3月に、セミナーや個別相談で伝えてきたメッセージを凝縮した『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』<ポプラ社刊>を発刊しました。「となりのかいご」のサイトやSNSでも、「仕事と介護の両立」の重要性を発信し続け、誰もが自然に家族の介護に向かうことができる社会の実現を目指しています。

松浦晋也さんのご自宅で(写真右)。このときの対談の内容は→こちらから。

仕事ができる人ほど「介護敗戦」に突き進んでしまう理由

 「となりのかいご」の活動をしていく中で、特に企業内での個別相談において改めて気づかされたことがありました。

 それは「会社員として現場の仕事ができる人ほど『介護敗戦』に突き進んでしまう」ということです。

 最初はとても不思議でした。「こんなに有能で、前向きで、賢い人たちが、なぜ介護になると、むちゃな選択をしようとするのだろう」と。

 次第に分かってきたのは、こうした方々は、介護に対して、真面目に前向きに、まさに仕事と同じように取り組んでしまうことです。考えてみれば、仕事ができる人ほど、これまでの成功体験を介護でも適用しようとするのは無理もありません。

 しかし、会社員が仕事に向かうように介護に取り組んでしまえば、それは「敗戦」への直行ルートです。

 なぜでしょうか?