「軸心見透し」ってどう読む?
「水切り場」「内業工場」「撓鉄(ぎょうてつ)」……造船工場に見学に行くと、聞き慣れない単語や成句がポンポン飛び出してくる。今号も珍しいフレーズからお届けしよう。
「軸心見透し(じくしんみとおし)」である。
フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):私の本業の半導体の世界では、発注から納品までの期間、いわゆるリードタイムが現在およそ1年半、製品によっては3年くらいかかっています。そして実際に製造にかかわる時間。シリコンウエハーの投入からチップの状態に仕上がるまでには現在平均で26週間ほどかかります。船の場合はどうでしょう。最初に見せていただいたブラスト機に鉄板を入れてから、実際に進水するまでにはどれくらいの時間がかかるものなのですか?
常石造船 造船計画部 部長 佐藤治氏(以下、佐):先ほど工場内で見ていただいた「加工開始」の部分。鉄板にブラストをかけて防錆(ぼうせい)塗装をして切断します。この「加工開始」から、船台へブロックを搭載して船の形にする「起工」までが約7カ月。そこから海に浮かばせる「進水」までが約4カ月。進水してからもいろいろと作業がありますので、最終的に船主さんへ引き渡す「完工」までにはさらに2カ月半ほどかかります。

F:つまり鉄板からお客さんに引き渡す船の状態になるまでには13カ月ほど。巨大な船が1年ちょっとで出来上がってしまうというのは驚異的なスピード感ですね。
それにしても、100t超えの大きなブロックが、船台で組み合わされるとピシッと寸法が合ってしまう。文字通り寸分違(たが)わずに合ってしまうのですから、その加工精度たるや、もはや神業としか言いようがない……。

常石造船 代表取締役社長執行役員 奥村幸生氏(以下、奥):ははは。まあそれが我々の商売ですからね(笑)。
F:巨大なのに精度が高いのはよく分かりましたが、船を造っていく上で、特に精度が必要な部分はどこですか?
奥:船体に関して言えば軸心かな。「じくしんみとおし」。あそこが一番、精度が要ると思う。

F:じくしんみとおし、ですか?
奥:そう。軸心見透し。漢字で書くと「見通し」ではなく「見透し」になります。「通す」ではなく「透かす」のほう。プロペラ軸の中心を見透かすんですよ。それに合わせて主機(船が推進するための機械の総称)を据え付け、プロペラの軸を据え付ける。お互いの中心軸がきちっと合ってないと大変なことになる。何しろ主機は重量300t以上もありますからね。

F:なるほど。エンジンの軸とプロペラの軸がピシッと合っていないと大変なことになっちゃう。そのあたりの精度の管理とか工程管理はどうなっているのでしょう。
奥:先ほど鉄板を切り出すところで、工程管理に関して「それは後のお楽しみ」と申し上げましたよね。当社では本格的に工場のIT化に取り組んでいます。まずこの図面を見てください。
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