F1はその昔、広告業界で効果の低いメディアと認識するきらいがあった。やたらとカネがかかる割に、それほど高い広告効果が期待できなかったからだ。

 それでもバブルの頃は多くの日本企業がF1のスポンサーになり、中にはチームを所有する企業まで現れた。しかしその後は読者諸兄もご存じの通り。多くの日本企業がF1から遠ざかり、ついには頼みの綱のホンダまで撤退してしまった。

 そんな中、日本人が代表を務める投資会社のBuzz & Co Group(Buzzグループ)が、2022年のシーズン途中で名門F1チームのスクーデリア・アルファタウリのオフィシャル・パートナーという得難い立場を獲得した。

 Buzzはいかにしてその“得難い立場”を獲得したのか。そもそもなぜF1チームのスポンサーになるのか。代表の長谷川大祐氏インタビュー続編である。

Buzz & Co Group 代表の長谷川大祐氏(左)
Buzz & Co Group 代表の長谷川大祐氏(左)

フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):F1は、米リバティ・メディアの買収により賞金額が増額され、一方でチームの運営費用には上限が課された。その結果、たとえ下位のチームであっても、スポンサーに頼らずにチームの運営ができるようになった。このお話にはとても驚かされました。F1のスポンサーには、やはりタニマチ的要素が大きいものなのかと思っていました。

Buzz & Co Group 代表取締役 長谷川大祐氏(以下、長):確かに過去にはそういう要素もないことはなかった。例えば「どうしても自分の息子をF1に乗せてやりたい」という大金持ちのお父さんなんかは実際にいた。そういう人は自分の会社で息子が乗るチームのスポンサーをしちゃうんです。

F:「ああ、年間100億でいいのね。それくらいならパパが出してあげよう」、みたいな(笑)。

:極端な話、そんな世界です(苦笑)。でもそういう人はしょせん「一見(いちげん)さん」です。息子の旬が過ぎたらとっととスポンサーを降りてしまう。でも今は違います。スポンサーの審査は非常に厳しく、一見さんはお断りになってきている。アルファタウリだってそうですよ。スポンサーの申し出をバンバン断っている。賞金が増額されて運営資金にキャップがかぶせられたから、スポンサーに頼る必要がないんです。

F:今回長谷川さんの会社がオフィシャル・パートナーになったアルファタウリも、それほどガツガツ資金を必要としていないということですか?

:はい。全くガツガツしていません。アルファタウリは基本的にF1で利益を上げようというチームじゃないんです。あそこは選手育成が主たる目的のチームで、トップチームであるレッドブル(オラクル・レッドブル・レーシング)への登竜門的な存在です。だから年間を通して収支がトントンになっていればそれでOKという感覚です。そもそもチーム代表のフランツ・トスト(※)さんが、お金に全然興味のない人で、本当にレースのことしか考えていませんから(笑)。今までは毎年レッドブルがアルファタウリに5000万ドルぐらい補填していたんです。でも今年からそれも必要なくなりました。全て自力でチーム運営ができるようになったんです。

※参考:トスト氏インタビューの過去記事 「ホンダが遅かったのはマ●ラーレンのせいだよ!」

F:長谷川さんは昨年までマクラーレン・レーシングの取締役を務めていましたね。

:はい。上級副社長でした。あそこもこの1年でものすごいことになっていますよ。本体であるマクラーレン・オートモーティブは中東の資本なんですが、レーシングのほうは全てアメリカ資本です。時価総額は円で1500億くらいになっています。今までレーシング部門はオートモーティブの金食い虫扱いでしたが、その立場は逆転されつつあります。

F:もはやF1は金食い虫ではないと。

:全く金食い虫ではありません。これからはF1チームそのものが利益を生むんです。それがたとえ下位のチームであっても。

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