衝撃のニュースが流れたので、緊急速報でお届けする。
「Buzz」という聞き慣れない社名の英国企業が、シーズン途中に突如F1チームのオフィシャル・パートナーになったのだ。実はこの企業、日本人が経営し、社員も日本人の純然たる「日本の会社」である。
Buzz & Co Group(Buzzグループ)で代表を務めるのは長谷川大祐氏。もともとはF1(フォーミュラワン)のシートを狙いイギリスでレースの修業を積んでいたレーサーで、これから語っていただく幾多の経験を経て、会社経営者となった。
なぜ長谷川氏はF1チームをスポンサーするのだろう。
レーサーの夢破れた若者が、後にビジネスで大成功し、関取や芸能人の“旦那衆”よろしくタニマチを気取りたいのか。否。そこには明確な氏のビジネス戦略があったのだ。

F1は今や単なる広告塔やブランドイメージをつくる道具ではなく、それ自体がビジネスとなっているのだという。その世界で長谷川氏は何を狙っているのか。
昨日の予告通り、号外でその背景と真意をお届けする。

フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):驚きました。まさか長谷川さんがアルファタウリのオフィシャル・パートナーになるとは……。昨シーズンからルノー改めアルピーヌ・レーシングの株主になる話を進めておられたのですが、それが直前でオジャンになってしまった。その後はアメリカのレーシングチームであるハースのスポンサーとなるべく動いておられましたが、こちらもまた最後の最後でひっくり返されてしまった。そしてここへ来てアルファタウリです。いったい何がどうなっているのでしょう。

Buzz & Co Group 代表取締役 長谷川大祐氏(以下、長):背景にあるのは「F1の価値が暴騰している」ということです。アメリカの大手メディアグループであるリバティ・メディアが2016年9月にF1の興行権を44億ドルで買収して6年近くがたちました。
ここ最近は新型コロナウイルス禍の影響もあり苦戦していたのですが、ようやく収束の兆しが見え、チケットはソールドアウト。リバティ・メディアは短期間のうちにF1をアメリカで大人気のモータースポーツに育て上げてしまったのです。
F:アメリカ人が好きなのはインディやNASCARなどのオーバルコース(楕円形のコース)を全開でブンブン走るレースで、ヨーロッパの雰囲気でスノビッシュなF1はイマイチ人気がないイメージなのですが。
長:それは昔の話です。今F1はアメリカで大人気です。来年からラスベガスも加わりアメリカ国内3カ所でF1グランプリが始まります。1つの国で3カ所のレースが開催されるのなんて、前代未聞です。つまりそれだけ観客動員に自信があるということです。
F:どうして急にアメリカでF1人気が高まったのでしょう。
長:Netflixと組んで、「Formula 1: Drive to Survive(Formula 1: 栄光のグランプリ)」というF1のリアリティ・ショー的な番組を作ったことが大きいでしょうね。レッドブル・レーシングのマックス・フェルスタッペンとメルセデスのルイス・ハミルトンの爆発的なバトル。さらにそれぞれのチーム監督であるクリスチャン・ホーナーとトト・ヴォルフのものすごいののしり合い。そんなスゴい映像をバンバン流しちゃう。
F:アメリカで人気のプロレス団体「WWE(World Wrestling Entertainment)」では、レスラーだけじゃなくてオーナー同士の対立構造があって、それをあおるような映像を流したりしますよね。
長:そうです、まさにあれと同じ手法をF1にも持ち込んで、レースの前から視聴者をドキドキさせる。F1レースの現場に行くと番組スタッフの姿を見るのですが、すごいですよ。密着なんてものじゃない。本当にベッタリ張り付いて、付きまとうようにして撮影しているんです。盗撮や盗聴まがいのこともいとわない。壁にマイクを押し当てたり、窓から手を突っ込んでGoProで撮影していたりするんですよ(笑)。
F:エグい……。
長:確かにエグいです。でもその分間違いなくリアルなんです。だから視聴者が引き込まれる。贔屓(ひいき)のドライバーに感情移入するようになる。やがて「本当のレースを見たい」という気持ちになる。だから今ヨーロッパのF1の会場はアメリカ人であふれています。
F:ということはアメリカ国内だけではなく、海外にまでアメリカ人が観に行っているのですか?
長:そう。アメリカ人が実際に観戦に行っているんです。おかげでチケットは30分でソールドアウトです。そうやってリバティ・メディアがF1の総収入を上げていった。そしてその収益を気前よくF1チームに分配するよう仕組みを変えた。
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