唐突だが愛知県刈谷市にあるアイシンに出掛けてきた。
トヨタ自動車系列の自動車部品メーカーである、あのアイシンだ。
フェル号ハイエースをカスタムした際に装着した「モーションコントロールビーム(MCB)」なる走行安定装置の具合が良いので、これは開発した方にお話を伺わねばなるまい、と押しかけた次第である。
昨年の7月に購入したハイエース。早速車高を上げ、大径タイヤを履き、荷室に縞板を張り巡らし、灯火類を交換した。
1tもの最大積載量を誇るガチガチの商用車であるハイエースは、重量物を積んでサスペンションが沈み込んだ状態でも底打ちせずに走れるよう、空荷のときは(サスペンションが伸びているので)まるで背伸びでもしているかのように車高が高い。もともと背伸び状態のクルマを、見た目優先でさらに車高を上げてしまったのだ。当然、“素”の状態よりも安定が悪くなる。そこで取り付けたのが、今回取材したMCBである。
MCBは細い棒と太い筒で構成された、ハッチバックのテールゲートを支えるダンパーのような形状をした機能部品である。クルマが持つ本来の走行性能を引き出し、安定性と快適性を同時に高め、「走りの楽しさを体感できる」とうたっている。

クルマは走行中に前後左右からさまざまな力が加わり、ボディには微細な振動や変形が発生する。ボディに「振動と変形」が生じると、そこにぶら下がるサスペンションは本来持つ性能を発揮しきれなくなる。この厄介な「振動と変形」を吸収してくれるのがMCBだ。
MCBは筒の側に内蔵されたスプリング機構により、ボディが変形してしまうほどの荷重と同等の反力を発生させ、変形を抑制する。さらに内蔵された摩擦機構の減衰力により、不快な振動も吸収してしまう機能を持っている。このシンプルな部品を車体の前後に装着するだけで、「ボディ剛性とサスペンションのチューニングを行ったのと同等の効果」が得られるという。
自分のクルマに装着しておいて言うのもナンだが、そんなに都合の良い部品があるのだろうか……。インタビューに応えてくださるのはアイシン 走行安全カンパニー 走行安全技術部の多田さんと中島さんだ。

フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):はじめまして。フェルディナント・ヤマグチと申します。今日はよろしくお願いします。今回は自分自身がMCBのユーザーであるため、お話を伺いにまいりました。
アイシン 走行安全カンパニー 走行安全技術部 多田慶樹さん、中島延久さん(以下、多、中):それはありがとうございます。よろしくお願いします。
F:初めに伺いたいのはこの「MCB」というパーツの存在意義です。これを取り付けることにより「ボディの変形を抑える」とのことですが、要するにストラットタワーバーとかスチール製のブレースと同じニュアンスですよね。より機構の単純なタワーバーやブレースのほうが安くて軽くて利きそうな気がするのですが、どうしてバネや摩擦機構を持つMCBが必要なのでしょうか。まずはそこから教えてください。
多:存在意義……いきなり哲学から入りますか(笑)。
ボディ剛性を上げるという意味からすると、存在意義は一緒と言えば一緒です。1番の違いは、MCBはその度合いを「調整できる」ということです。タワーバーとかブレースは、突っ張りが強く調整も利かないから乗り心地が悪くなるという弊害が生まれます。ボディをガチガチに固めてしまうから、確かに剛性は上がります。ですがそのトレードオフとして、走るとゴツゴツガタガタしてしまうんです。MCBはそこを両立できるわけです。乗り心地とボディ剛性アップを両立することができるのです。
中:MCBはハンドルの切り始め、舵(かじ)の切り始めの段階では剛性として働きます。内蔵された強いバネの力で、グッと押し返すようなイメージです。さらに大きな力が加わると、例えば突起の乗り越しとか、アスファルトにポコッと開いた穴に落ちたときなどの瞬間的なストローク変位。そんなときは伸縮により力を逃がしてやる。突っ張るときは突っ張る。逃がすべきときは逃がす。だから操安性をキチンと維持しつつ乗り心地も悪化させない。相反する効果を出すことができるのです。

F:よくコーナリングや急制動時に「ボディがヨレる」という言い方をしますが、実際にどれくらい“ヨレ”ているものなのですか? もちろん車体の大きさによって差が出るのでしょうが、自動車のボディって、具体的な数字としてはどれくらい動いているものなのですか。
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3/14、4/5ウェビナー開催 「中国、技術覇権の行方」(全2回シリーズ)

米中対立が深刻化する一方で、中国は先端技術の獲得にあくなき執念を燃やしています。日経ビジネスLIVEでは中国のEVと半導体の動向を深掘りするため、2人の専門家を講師に招いたウェビナーシリーズ「中国、技術覇権の行方」(全2回)を開催します。
3月14日(火)19時からの第1回のテーマは、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」です。知財ランドスケープCEOの山内明氏が登壇し、「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」をテーマに講演いただきます。
4月5日(水)19時からの第2回のテーマは、「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」です。講師は英調査会社英オムディア(インフォーマインテリジェンス)でシニアコンサルティングディレクターを務める南川明氏です。
各ウェビナーでは視聴者の皆様からの質問をお受けし、モデレーターも交えて議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。
■開催日:3月14日(火)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「特許分析であぶり出す中国EV勢の脅威」
■講師:知財ランドスケープCEO 山内明氏
■モデレーター:日経ビジネス記者 薬文江
■第2回開催日:4月5日(水)19:00~20:00(予定)
■テーマ:「深刻化する米中半導体対立、日本企業へのインパクト」
■講師:英オムディア(インフォーマインテリジェンス)、シニアコンサルティングディレクター 南川明氏
■モデレーター:日経ビジネス上海支局長 佐伯真也
■会場:Zoomを使ったオンラインセミナー(原則ライブ配信)
■主催:日経ビジネス
■受講料:日経ビジネス電子版の有料会員のみ無料となります(いずれも事前登録制、先着順)。視聴希望でまだ有料会員でない方は、会員登録をした上で、参加をお申し込みください(月額2500円、初月無料)
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