F:そうですよね。シボレーという同一のブランドで、同一の車名で70年。これは世界的に見ても希少で貴重な存在です。GMのような巨大な企業の中でとなると、それもひとしおです。

上原:独自のポジションを築き、歴史を築き、またその歴史を繋いでいく。そんな商品であることをGMはとても大事にしています。そのコルベットの歴史の中で、今回の8世代目はミッドシップエンジンに右ハンドルの設定、と大きな変革を遂げました。また先程お話しした「ゼロ・ゼロ・ゼロ」というGMの方向性(前回参照、事故ゼロ、排出ゼロ、渋滞ゼロ)からすれば、将来的にはそこにもっと近いような発展をしていくのだろうと、そういったことも予見はされるんですけれども。

F:コルベットはGM最後の電気の力を借りない純ICE(純粋な内燃機関)車になるのでしょうか。

上原:今現在はそうですね。将来の計画に関しては、ここではちょっとお伝えしづらいです。

 今この場でお話できるのは、GMは「ゼロ・ゼロ・ゼロ」というビジョンを掲げていて、コルベットを含む全ての商品でそのビジョンを共有している、ということです。コルベットの開発責任者も同じ話をしています。

F:コルベットといえども、今後は聖域扱いされないと。

上原:そうなのかもしれません。

安部:コルベットは今過渡期にあるんです。だってICEからいきなりBEV(バッテリーEV、純粋な電気自動車)にしますと言っても、明日からカチっと切り替えられるわけではありませんから。どうしてもなくなっていくものと残るものとに分かれるわけで。

F:コルベットはどちらに入るのでしょう。

上原:もう少し分かりやすい言い方をしますと、今大きな変革をしようとしているGMの得意なアセット、大きな資産は何ですか? と問われれば、コルベットは絶対的に大きな資産なんですね。フルサイズのピックアップトラックと共に、コルベットのビジネスは現在のGMの強みであるのです。ここで上げた収益を、将来の投資に使っているわけですよ。

よくミッドシップにしましたよね

F:コルベットとフルサイズのピックアップトラックはGMの収益源。なるほど。何となく背景が見えてきました。それにしても新しいコルベット。本当によくできていますね。格好も良いし値段も安い。何より最高のドライバビリティ。週末を中心に結構な距離を乗りましたが、乗れば乗るほどクルマが小さく感じてくる。本当は大きなクルマなのに、乗れば乗るほど車体がキュッと締まってくるんです。これはとても不思議な感覚でした。

安部:ああ、分かります。その感覚。

納車した顧客に送られるコルベットのミニチュア。車体の色と同色になる。
納車した顧客に送られるコルベットのミニチュア。車体の色と同色になる。

F:何というか、ボディスーツのような。身体の一部のような感覚になってくる。うんと失礼な言い方をすると、「アメ車っぽくない」というか。それにちょっと無茶な運転をしても、全てクルマが許容してくれる。今までのコルベットは「ミスを許さない」厳しさがありました。今までとは明らかに違う走りですよね。ミッドシップというレイアウト(前後の車軸の間に最も重い部品であるエンジンを配置する形式)は運動性能にここまで効くものなのかと。

上原:ありがとうございます。

F:ですがコルベットの主戦場はアメリカです。アメリカ人はフロントがドーンと長いFR(前輪の車軸上にエンジンを配置)のレイアウトが大好きで、フェラーリでさえアメリカ向けにFRのクルマを造るほどです。GMの首脳陣は、よくミッドシップの生産を決断しましたね。これじゃ売れないよと反対意見が相当出たのではありませんか?

上原:その疑問に対するお答えはとてもシンプルです。実はGMはコルベットのエンジンを長らく運転席の後ろ(=ミッドシップ)に積みたかったんです。レースを通してミッドシップの有用性は分かっていたし、C2といわれる2世代目の頃から当時の開発責任者のダントフ(ゾーラ・アーカス-ダントフ)という人は実験用の車両でミッドシップを造って何度もテストをしているんです。実は先代のC7の開発企画のときにも、いったんはエンジンを後ろに積むということが社内では認められていたんです。

F:何と! 先代のコルベットでもミッドシップの計画があったと。

上原:そうなんです。ただタイミングが悪かった。ちょうどその時期はGMがチャプター11の適用を受けた頃で。いくらコルベットでも、そんなに開発にお金は使えないよと。

F:C7も速かったですよね。直線は(笑)。エンジンがすごかったし。

上原:そうです。だからタイヤのコンパウンドを柔らかくして……そうするとうんとマッチョな、アグレッシブなクルマになるんですよね。ハイパワーで、アクセルをベタ踏みするとタイヤからもうもうと煙を吐いて走るような。

F:コルベットを買う人はそんなシーンに憧れて買うわけですよね。そうしたマッチョなイメージを求めて。