稲:この機体ぐらいだと燃え尽きるほどにはならないです。多少、先端の空気が当たる部分が熱くなるというのはあるのですが、金属が溶けるほどの温度にはなりません。
F:もっともっと高く上げないと、落ちる時に焼けないということですか。
稲:高さというよりも速度の問題です。空気加熱なので、空気が当たる速度の3乗で加熱されていきます。焼けるには第1宇宙速度というスピードにまで加速されなければなりません。
F:第1宇宙速度……。

稲:物を上に放り投げると放物線を描いて落ちてきますよね。それをうんと速いスピードで投げて地球の丸みと同じ曲率になったら、落ちることなく、地球の周りをぐるぐる回り始めるんです。その速度が第1宇宙速度です。人工衛星のスピードです。
F:時速で言うと何キロくらいなんですか?
稲:秒速7.9キロメートル。時速で言うと2万8440kmです。我々のこのMOMOロケットではその速度は得られません。
F:そこまでロケットエンジンの力が強くないということですか?
稲:強くないというか、エンジンと重量の問題です。そもそもMOMOはそこまでの推力を求めるロケットではなく、宇宙空間まで行って、そのまま落ちてくるのが目的です。
MOMOとはそういうもので、次世代機のZEROというロケットは、宇宙まで行った後、2段ロケットが積んであって、そこからさらに加速して人工衛星になるというものです。
F:それはいつできるのですか。大きさはどれくらいですか?
稲:2023年度に打ち上げをする予定で開発しています。次のはかなり大きくなりますよ。今目の前のあるMOMOは全長10メートル、直径50センチですが、次のは全長が20メートルちょっと。直径は1.7メートルになるので。
F:長さが倍になるのだから、ペイロードも倍くらいになるのですか?
稲:100キロのペイロードを第1宇宙速度まで上げられるようになります。ただ、人工衛星になるかならないかで運べる荷物の役割が全然違うので、高さやペイロードのkgで比較しても意味がありません。ロケットはともかく速度が命なので。
F:何kg載せた、何km上がった、というので騒ぐのは素人ということですね。
稲:それはそれでもちろん重要なのですが、ここのMOMOという観測ロケットと呼ばれるロケットと、人工衛星になるロケットはまったくの別物であるということをまず理解してほしいです。
ロケットは案外「普通の燃料」で飛ぶ
F:なるほど。よく分かりました。ところでこのロケットの燃料はどのようなものを使っているのですか?
稲:燃料はエタノールで、酸化剤に液体酸素を使っています。うんとざっくり言うと、それぞれ400リッターずつ積んでいます。
F:ロケット用の特別なエタノールなのですか?
稲:「工業用エタノール」として市販されているもので、特別なものじゃありません。少しプロパノールが入っています。成分は97%がエタノールです。酸化剤の液体酸素もまったく普通の市販品です。基本的に病院に卸しているのと同じもので、ローリーが病院を回るついでに(ISTに)寄っていく、という感じです(笑)。

F:何か拍子抜けしますね。ロケットは何か特別なもので飛んでいるのかと思っていました。
稲:そこが重要なんです。特別なものは高くなる。普通に売っているものの組み合わせだからこそ、コストを抑えて飛ばすことができるのです。
F:何かの本で、ロケットは猛毒を撒き散らしながら飛ばしていると読んだ記憶があるのですが、エタノールと酸素では毒を出しようがないですね。
稲:まったくないです。基本的にエタノールが燃えているのと一緒なので、アルコールランプのお化けだと思ってもらえばいいかと。煙もモクモク出ませんし。
F:NASAのスペースシャトルとか、JAXAのH-IIAとか、盛大に煙を出しているじゃないですか。あれはどうしてですか?
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